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あなたのとりこ 423 [あなたのとりこ 15 創作]

「昨日の夜遅くに袁満さんから電話を貰って、何でも出雲君が会社を辞めると云い出したそうじゃないか。昨日袁満さんと唐目君の二人で、池袋の喫茶店で出雲君と逢って話しをしたと云う事だけど、どんな具合だったのかちょっと訊こうと思って電話したんだよ」
「ああ、袁満さんから電話があったんだ。確かに出雲君とちょっと話したけど、まあ、仕事が変わって今後の目途も無く、始めて遣る特注営業で土師尾常務や日比課長からのこれと云った援助も無いし、出雲さんとしては途方に暮れていたところに、土師尾常務と仕事で水戸に同行して一日中、手際が悪いだの何だのと遣る事為す事難癖を付けられて、果ては給料泥棒みたいな事まで云われて、ほとほと愛想が尽きたと云うところなのかな」
「成程ね。その辺は想像が付くな。出雲君も云ってみれば元々それ程ウチの会社に思い入れがある訳でもないし、そうまで無責任に土師尾常務に詰られるくらいなら、いっそこんなストレスの多い会社なんか辞めて仕舞おうと億劫序に決心したと云う事かな」
「億劫序、と云う事もないだろうけど、水戸の一件が明快な契機ではあるようだね」
 頑治さんはそう云いながら空で頷くのでありました。その仕草を、寝そべった儘片目を開けた夕美さんが下から見ているのでありました。まあ、気を遣ってもこんなに近いところで電話していれば、自ずと夕美さんも起きて仕舞うと云うものでありますか。
「出雲君の決心は固そうだったかい?」
「そうだな。熟慮に熟慮を重ねたと云う訳じゃなくて、ふと思い付いて辞めようとしたのかも知れないけど、そう決心してみると急に気持ちが楽になって視界も開けたんじゃないかな。だからおいそれとはその了見は翻らないと思うよ」
「ふうん、成程ね。唐目君がそう見立てるのならそうなんだろうなあ」
 均目さんは電話の向こうで納得の頷きをしているのでありましょう。
「袁満さんも、出雲君を敢えて強く引き留めるような様子を見せなかったしね」
「ああそう。・・・朝早くに電話して申し訳無かったね。それじゃあまあ、出雲君が辞表を出した後の事はまた連休明けに皆で話し合うとして」
 均目さんからの電話はそう云う言葉で終わるのでありました。
「会社の人からの電話?」
 頑治さんが受話器を置くのを待って夕美さんが寝そべった儘で訊くのでありました。
「そう。昨日の人とはまた別の人」
「それは聞いていて判ったけど、また今日も、今度はその人と逢う事になったの?」
 夕美さんは首を傾げるのでありました。
「いやそう云う訳じゃない」
 頑治さんが首を横に振るのを見て夕美さんは上体を起こすのでありました。
「なんだかここにきて色々慌ただしくなってきたわね」
「それはそうだけど、まあ、何事も連休明けに、と云う事になるだろう」
 折角の夕美さんとの久し振りの逢瀬をこれ以上邪魔されたくなかったから、頑治さんは願望も込めて、そう断言調に云うのでありました。
「そうだと良いけどね」
(続)
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