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あなたのとりこ 419 [あなたのとりこ 14 創作]

「忙しいのに態々呼び出したようで悪かったなあ」
 袁満さんがレジまで一緒に歩く間に云うのでありました。
「いや、そんな事はありませんけど」
 頑治さんはそう云いながらも、申し訳無さ解消に頑治さんのコーヒー代を持ってくれると云う袁満さんの申し出を、大いに遠慮を見せながらも結局断らないのでありました。
 喫茶店を出た後、そこですぐに袁満さんと別れた頑治さんは池袋駅東口の西武百貨店に歩を向けるのでありました。夕美さんとの待ち合わせ時間迄には未だ余裕があるのでありました。気が急いていたとは云え、喫茶店での滞在は思っていたより短時間で済んだのでありました。とは云っても、優に一時間は過ぎてはいましたけれど。

 西武百貨店の正面玄関脇に夕美さんはもう来ているのでありました。頑治さんはすぐに遠目ながらも行き交う人波の向こうに立つ夕美さんの姿を見付けるのでありました。
 頑治さんは手を挙げて夕美さんの目に自分をアピールしながら近付いて行くと、夕美さんもすぐに頑治さんを見付けて破顔して手を振り返すのでありました。
「かなり待ったかな?」
「ううん、今さっき来たところ」
 夕美さんは俯いて自分の左手の腕時計を覗くのでありました。「意外に早く済んだみたいね。ひょっとしたら深刻な話しだから長引くんじゃないかって思っていたけど」
 夕美さんは一旦左手を下ろしてから、頑治さんの右手を改めて握るのでありました。
「いやまあ、成るべく早切り上げを秘かに心掛けて、こちらから根掘り葉掘り訊き質す事は控えたからね。ま、人の決心は変えられないだろうし」
「会社を辞める気持ちは固そうだったの、その人?」
「まあそうだね。それに関して他の者が容喙出来そうな感じは無かったかな。まあ、今後の事は総て連休明けに、と云う事になるかなあ」
「ふうん。なんだか色んな懸念が次から次に発生するわね、頑ちゃんの会社」
「そう云えばそうだなあ」
 頑治さんはやれやれ云った風に、顔をゆっくり低振幅で横に何度か動かして見せるのでありました。「でも取り敢えず夕美がこっちに居る間は、もう何も無いと思うけど」
「そうなら良いけどね」
 夕美さんは少し不安そうに眉根を寄せるのでありました。
「じゃあ、サンシャイン水族館に向かおうか」
 頑治さんは気分を変えるように夕美さんと繋いだ手を一振り動かすのでありました。
「あたしもそうだけど、頑ちゃんも初めて行くんでしょう。行き道は判るの?」
「前に仕事でこの辺に納品にも来た事があるから、朧気には判っているよ」
「ああそう。それにまあ、頑ちゃんの会社は地図も扱っているようだから、その社員たる者が道に迷ったりすると会社の信用に関わるわよね」
「それはあんまり、この際関係が無いような気がするけど」
(続)
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