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あなたのとりこ 381 [あなたのとりこ 13 創作]

「そんな事を云って、問題をはぐらかさないでくれるか均目君」
 土師尾常務は均目さんを睨むのでありました。先程の経緯もあって、均目さんが自分の一睨みに対して思いの外腰が引けないだろと云う感触は、慎に忌々しい事ながら端から有してはいるような風情が、その睨む瞳の中に色として現れているのでありました。
「いやいや、会議の大前提として、常務の了見が抑々おかしいと云っているんです」
 均目さんは拘って見せるのでありました。勘繰れば、そこに拘って譲らない振りをしながら、袁満さんへの攻撃の矛先を少し鈍らせてやろうとの意図からかも知れません。
「大体この会議の議題と云うのは、どのような形態に社長や常務が会社をしていく心算なのかとか、会社の将来の見取り図と云うのか、展望を伺うと云う趣旨で我々従業員が提案したものですから、まるで敵味方みたいな感覚で個人攻撃に徒に時間を費やさないで、本来話し合うべき事を淡々と話す方が建設的なんじゃないですかねえ」
 那間裕子女史がこの場を丸く収めようとしてかそんな事を云うのでありました。
「しかし、こちらがそう云う話しをしようとしても、君達が好い加減な態度でこの会議の臨んでいるのなら、どんなに真剣に話しをしても無駄じゃないか」
 土師尾常務としてはあくまで袁満さんが先ず以って自分の怠慢を認めない限り、話しを先に進める意志は更々無いと云う事のようでありました。
「確かに具体的な数字を確認しながら一つ々々の事柄に付いて話をしないと、将来の展望を語れとか催促されても、実際どう話して良いものか困るねえ。適当なスローガンをでもぶっ放せばそれでいいと云うのなら、それは幾らでも並べる事は出来るけど、それじゃああんまり会議の意味は無いだろうしねえ。そうは思わないかい那間君?」
 社長が畳みかける心算か、口の端に苦笑を湛えて云うのでありました。「抽象的な、如何にも綺麗な事を云って取り繕おうとするのは止めた方が良い。要するに会議に臨む姿勢がなっていないところを、誤魔化そうとしての事なんだろうから」
「どこが抽象的な綺麗事よ。冗談じゃない」
 那間裕子女史がいきり立つのでありました。「要するに経営者として、始めから会社の将来の展望も見取り図も頭に無いものだから、筋違いなところを何でもかんでも論って、些末な個人攻撃で本題を取り敢えず誤魔化そうとしているんじゃないか、と云う風にしか見えないわ、今の土師尾常務の態度や社長の話し振りからは。それでこの会議を乗り切れると云う目論見なら、ナメてかかるのもいい加減にして欲しい、と云うものよ」
 何か挑発的な事を云われたと感じたら反射的に、見境もなくその相手に喧嘩腰で対抗しようとする傾向は、那間裕子女史も土師尾常務もそんなに違いは無いのかも知れないと頑治さんは秘かに思うのでありました。まあ、ご当人達の総合的キャラクターの違いとか、個人的な付き合いの濃淡や、こちらのシンパシーの度合から、そこに一種の愛嬌を感じ取るかそれとも単なる軽蔑を感じ取るかの違いは両者の間に明快にあるとしても。
「何を失礼な事を云うんだ!」
 打てば響くように(!)、土師尾常務が目を吊り上げるのでありました。「要するに那間君にはこちらの話しなんか、初めから聞く気が無いと云う事だな」
(続)
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