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あなたのとりこ 369 [あなたのとりこ 13 創作]

 袁満さんは均目さんの言はさて置いて、眉根を寄せて首を横に振るのでありました。
 そこに、例に依って別に悪びれた風も無く、二十分遅刻の那間裕子女史が姿を見せるのでありました。那間裕子女史は朝っぱらから袁満さんと日比課長が揃って制作部スペースに来て、二人で同じような渋い顔をしているのを当然訝るのでありました。
「何、どうかしたの?」
「片久那制作部長から、風邪で今日は休むと云う電話が今し方入ったんですよ」
 頑治さんが説明するのでありました。頑治さんはその日は池袋の宇留斉製本所に朝一番で向かう予定でありましたが、何となく出そびれて未だ居残っていたのでありました。
「へえ、片久那さんはお休みなの、今日は」
 那間裕子女史が云うのでありましたが、それは驚きの口調ではあるものの、聞きように依っては少し弾んだような云い草と云えなくもないものでありました。一向に反省の様子も無く例に依ってその日も遅刻した決まり悪さに対して、片久那制作部長の軽蔑交じりの叱責の視線を身に受けなくて良い事に、思わずホッとしたためでありましょうか。
「甲斐さんも出雲君もちょっとこっちに来てくれるかな」
 袁満さんが営業部スペースの方に声を掛けるのでありました。出雲さんはすぐに遣って来るのでありましたが、丁度かかってきた電話を取った甲斐計子女史は少し遅れるのでありました。甲斐計子女史を待つ間にこれはどうやらすぐに動けないだろうなと判断して、頑治さんは宇留斉製本所に一時間程遅れると云う電話を入れるのでありました。
「で、今日の全体会議はお流れとした方が良いかな」
 従業員全員が揃ったところで袁満さんが一同を見渡しながら訊くのでありました。
「そうね。土師尾営業部長と形式的に会議をやっても意味が無いからなあ」
 日比課長が先程と同じ事を繰り返すのでありました。
「誰かが何か云うと、つまらないところにすぐに引っ掛かってきて喧嘩腰になって、肝心の、会社の将来の見取り図とかの話しは間違いなく脇に置かれて仕舞うでしょうね」
 甲斐計子女史も流会に賛成のようでありました。
「第一あの人の頭の中には、将来の見取り図なんか何も描かれていないでしょうし」
 この侮るような物腰に依れば那間裕子女史もお流れ派の模様であります。
「でも、片久那制作部長が出席しないからって、それを理由につれなくお流れにすると、如何にも土師尾常務を軽く見ているような感じで、臍を曲げて仕舞いませんかね」
 均目さんが容易に予想出来る当然の懸念を表するのでありました。
「まあ実際、誰も重く見てなんかいないっスけど」
 出雲さんが冗談口調ながら、全く以って本当の事を云うのでありました。
「確かに会議にも何にもならないで、刺々しいあの人と従業員の対立構図だけが結局際立つだけで、後味悪く散会する事になるのは目に見えているかな」
 均目さんはげんなり顔をして、今度は悲観的観測を表して先の懸念を引っ込めるのでありました。つまり均目さんもお流れ派に入会したと云う事になりますか。
「でもこっちから会議を催促した手前、そんな無造作にお流れにして良いのかなあ」
(続)
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