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あなたのとりこ 362 [あなたのとりこ 13 創作]

「この件は一応組合員で話し合う方が良いのかしら?」
 那間裕子女史が均目さんと頑治さんの二人を交互に見るのでありました。
「その方が良いんじゃないかな。遣り口が如何にも不愉快だし」
 頑治さんがそれはどうだろうかと疑義を挟むより先に、均目さんが使っていた箸を取り皿の上に揃えて置きながら頷くのでありました。「まあ、組合として話し合って、その結果あの二人や社長に何か文句を云うかどうかは、今のところ別にして」
「一応組合員全員で、あの二人に退職金が支払われた、と云う事実を共有しておく方が良いと云う事ね。あたしも確かにその方が良いと思うわ」
 那間裕子女史はそう云った後頑治さんの方に顔を向けて、頑治さんの考えを質すように首をほんの少し傾げて見せるのでありました。
「全員で共有するのは別に反対ではないですが、抑々組合が口出し出来る事柄なのかどうかの点は、俺としたら少し疑問がありますけど」
「でも、その疑問は組合の中の話し合いで表明して貰えば良い訳で、取り敢えず組合で話し合う事自体には反対じゃないのよね、唐目君も」
「まあ、それはそうですけれど」
 頑治さんは曖昧に首を縦に微動させるのでありました。「でもそれは当然、会社の在り方と云うのか、将来の見取り図をあれやこれやと社長や土師尾常務、それに片久那制作部長に訊き質す全体会議の前に、組合員全員に告げておく訳ですよねえ?」
「まあ、そうでしょうね」
 那間裕子女史が力強く首肯するのでありました。
「そうすると将来の会社の在り方の話しよりも、当面の、二人の退職金の話しの方に組合員の関心は引っ張られて仕舞うんじゃないですかね。すると結局、全体会議は云ってみれば、土師尾常務と片久那制作部長の糾弾会議みたいになって仕舞うんじゃないかな」
「まあ、会議の席で文句を云うかどうかはあくまで別だけど、そうなるかも知れない」
 均目さんが眉根を寄せて頷くのでありました。「若し俺達がその事に関して何か云い出せば、会議は双方が一気に殺気立った感じになるんだろうなあ、屹度」
「将来の事を話し合うと云う当初の題目は何処かにすっ飛んで仕舞って、険悪な対立激化の場になる事が予出来るけど、それでも良いのかなあ」
 頑治さんは顎に指を当てて首を傾げて気後れを表するのでありました。
「そうなったらそうなったで仕方が無いんじゃないの」
 那間裕子女史はもう既に土師尾常務と片久那制作部長に対する敵意を満面に湛えて、突き放すような云い草をするのでありました。「狡賢く、しかもこそこそと、自分達の余禄を手に入れよとしたんだから、あたし達に詰られても自業自得よ」
「こそこそと、と云うのは俺達に対して断わりも無しにと云う事であって、向こうにすれば、敢えて断る必要のない事を断らないでおいただけと云う理屈もあるだろうし、退職金支給が至極当然であると云う判断からすれば、俺達に謂れの無い文句を付けられていると感じるかもしれないし、これはなかなか陰鬱な会議になりそうな気がするなあ」
(続)
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