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あなたのとりこ 358 [あなたのとりこ 12 創作]

 那間裕子女史が甲斐計子女史を見ながら一度頷いて見せるのでありました。
「若しそれが本当だったら、酷いわね」
 甲斐計子女史は眉を顰めて頑治さんの顔を上目に見るのでありました。それは別に、頑治さん当人に対して険しい感情を向けた訳でないのは、頑治さんとしてもちゃんと判るのでありましたが、しかしそれでも頑治さんは少し怯むのでありました。
「つまり土師尾さんとしては出雲君と日比さんを馘首して、自分と山尾さんの二人でウチの社の営業を回して行って、ひょっとしたら近い将来には袁満君の出張営業も廃止する心算だった訳よ。これが恐らくリアルな、会社の斜陽を挽回する土師尾さんの策ね」
 那間裕子女史が概括するのでありました。
「と云う事は俺もその内馘首になる訳か」
 袁満さんが自分を指差しながらやや声を上擦らせるのでありました。
「そんな事をして、会社はやっていけるのかしら」
 甲斐計子女史が陰鬱気な表情をして首を傾げるのでありました。
「土師尾常務はやっていけると思っているんだろうなあ」
 均目さんが不愉快そうな口調で諾うのでありました。「結局のところ、当座の自分の取り分が確保出来れば、あの人はそれだけで満足と云う肚なんだろうし」
「要するに、今後ウチは特注営業だけで食っていくと云う事か」
 袁満さんが土師尾常務に対するあからさまな敵意を語調に載せるのでありました。
「営業の土師尾常務と製作の片久那制作部長と、それに会計の甲斐さんが居ればそれで充分で、後のヤツ等はお払い箱、と云う事っスかね。随分見縊られたもんっスね」
 出雲さんも眉根を寄せるのでありました。
「あたしは必要とは思われていないんじゃないの。あたしが組合に入る事になった経緯を考えてみると、あたしだって馘首にしても構わないと思われているに違いないわ」
 まあ確かに、甲斐計子女史も先にあったいざこざを勘案すると、社長や土師尾常務には重要存在とは認識されてはいないのでありましょう。
「ところで、今のこの話しは俺の憶測から出たもので、あくまでも何か確証があって云っているんじゃないですよ、念のため云っておくけど」
 ここで頑治さんが言葉を挟むのでありました。
「でも、唐目君の推察に俺はリアリティー-を感じるよ」
 均目さんが云うのでありました。
「あたしも始めてそう云う観測を聞いた時に、成程と思ったわ」
 那間裕子女史も均目さんに同調するのでありました。
「でも推察である以上、この読みが正しいかどうかは全く不明ですよ。曖昧な憶測で、あれこれ話しを進めてもあんまり意味は無いでしょう。ただそんな疑いが持てると云う事だから、先ずは社長とか土師尾常務なり、或いは片久那制作部長も含めて、今後の展望とか会社の在り方を一体どのように考えているのか、社内全体会議か何かの開催を提起して、率直に聞いてみる必要があるんじゃないですかね。様々な話しはその後、ですよ」
(続)
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