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あなたのとりこ 342 [あなたのとりこ 12 創作]

 那間裕子女史がそう云う風に日比課長を追い詰めるのでありました。しかしこれは嫌悪感からと云うよりは、少しからかってみようと云った意味合いが強いでありましょうか。那間裕子女史も頑治さんと同じように、日比課長のどこか遠慮がちな否定の言が可笑しくなって、ちょいとばかりちょっかいを出してみたくなったのでありましょう。
「他にも色々な方面に興味はあるよ、俺だって。もう良い歳なんだから」
「歳が増すにつれてスケベの方も益々盛んになると云うんじゃないのかしら、日比さんの場合は。そう云われてみれば我が社の男達の中では、日比さんが一番ギラギラ脂ぎっているようにも見えるわね。甲斐さんもそう云う風に思わない?」
 那間裕子女史は卓の上に身を乗り出して、頑治さんの左向こうに居る甲斐計子女史の方に同意を求めて顔を向けるのでありました。甲斐計子女史は見返すもののただ口に手添えて笑うだけで、その那間裕子女史の言に頷いたりして賛同する素振りは見せないけれど、だからと云って首を横に振る仕草もしないのでありました。
「なんか俺は誤解されているみたいだな、那間さんにも甲斐さんにも」
 日比課長はそう呟いて猪口の酒をグイと飲み干すのでありました。
「それは兎も角として、組合に入ると云う目は全く無いのかな?」
 袁満さんが空いた日比課長の猪口に徳利を差し向けるのでありました。
「まあ、今は無いな。将来は判らないけど」
 日比課長は曖昧な返事をしながら袁満さんの酌を受けるのでありました。
「社長や土師尾営業部長に忠義立てしていても、あの二人はそんな事屁とも思っていないんだから、その内手酷い目に遭わせられるかもよ」
「俺は別にあの二人になんか、忠義立てする気は無いよ」
「だったら組合に入れば良いじゃないか。片久那制作部長も勧めるんだから」
「まあね。でも何となく今は止めておくよ」
 日比課長はどうした訳か妙に頑ななのでありました。
「会社の売り上げがガタ落ちして従業員の待遇を大幅に落とそうとしたのに、組合が出来た事で逆に従業員の賃金は上がるし、一時金の削減も儘ならなくなったし、片久那さんと土師尾さんの待遇も役員に昇格させて上げなければならなくなったんで、社長としてはせめてもの打開策として非組合員の甲斐さんへの皺寄せを企んだけど、まあ、それは片久那さんにきつく諌められて上手くいかなかったと云う事になる訳よね」
 那間裕子女史が先程のからかう調子ではなく、至極真面目な顔付きでテーブルを挟んでほぼ自分の正面に座っている日比課長に語り出すのでありました。「それに甲斐さんは組合員になったんだから、今後はそう云う無体な事はおいそれとは出来なくなったわけよ。そうなると社長の次のターゲットは、日比さんだと云うように考えられる訳じゃない」
「そうだよ。そう考えるのが妥当なところだよ」
 袁満さんがすぐに那間裕子女史に同調するのでありました。
「まあ、この先も片久那制作部長の目があるから、社長もそう滅多な事は出来ないと思うけど、でも、確かに一番立場が弱いのは日比課長と云うのは事になるかな」
(続)
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