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あなたのとりこ 322 [あなたのとりこ 11 創作]

 日比課長が云い募るのでありました。「全くとことん見下げ果てたヤツだぜ、あの営業部長さんは。まあ、もう疾うに判ってい事だから、今更怒る気も無いけど」
 と云いながらも、結構な怒気ではないかと頑治さんは思うのでありました。
「そう云う日比さんも、今日の社長に対するお追従満載の遜り方を見させて貰うと、あんまり人の事は云えないと思うよ。実に格好良くなかったなあ今日の日比さんは。まあ、何時も万事にそれ程格良いと云う訳じゃないけどね、念のために付け加えると」
 袁満さんが狎れた口調でからかうのでありました。
「片久那制作部長と同じで、俺も社長と云う立場に敬意を表しているだけだよ」
「あのおべんちゃらたっぷりの話し振りは、それ以上の、卑屈さすら感じたけど」
「別に卑屈になんかなっていないよ」
 日比課長は憮然とするのでありました。「第一俺はあの営業部長さんのように、自分を社長に売り込もうなんて云う下心なんか毛程も無いし」
「どうだかね」
 袁満さんはあくまで皮肉っぽい云い方を止めないのでありました。
「勝手にそう思いたければ思えば良いさ。袁満君の心根なんか、俺にはどうでも良い」
「まあまあ日比課長」
 均目さんが両掌を日比課長に向けて、ゆっくり数度、低振幅で日比課長の前の空気を押すような手真似をするのでありました。「袁満さんも本気で日比さんを悪く云っているんじゃないし。ところでそれはそうと、日比課長は組合に入る気は無いのかな?」
 均目さんから急にそんな話しを振られたものだから、日比課長は瞠目して唇の前迄運んでいた猪口をその位置で止めるのでありました。
「俺が組合に、かい?」
「そうですよ。従業員なんだから組合に入った方が何かと有利だと思うけど」
「課長でも入れるの?」
「勿論です。部長でも多分大丈夫なんだから」
「とすると、土師尾営業部長と片久那制作部長も組合に入る心算なの?」
 若しも両部長迄もが組合に入ると云う事になっているのであれば、自分だけ置いてけ堀を食らうと云うのは何とも困ると思ったのか、日比課長は均目さんの言葉の、部長でも大丈夫、と云うその部分にちょいと引っかかってそう訊くのでありましょう。
「いや、流石に社長の手前、両部長は組合には入りませんがね」
 均目さんが片手を何度か横に振るのでありました。
「ああそう」
 日比課長はそれを聞いて何となく安堵したような顔をするのでありました。「俺も組合に入るのはちょっと躊躇うなあ、社長や両部長との腐れ縁もあるし」
 この、腐れ縁、とは、単に五人の組合員よりも前に社長や両部長と出会っていると云う程度の意味合いでありましょうか。自分が迂闊に組合に入れば、その腐れ縁の社長や両部長の機嫌を損ねるようで、何とはなしに及び腰になっていると云う事でありましょう。
(続)
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