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あなたのとりこ 309 [あなたのとりこ 11 創作]

「第一、団交の回を重ねれば重ねるだけ、少しずつでも獲得分が増えると云う確実な目算があるなら粘る甲斐もあるけど、それ程向こうも甘くはないでしょうし」
「それもそうだなあ。・・・」
 袁満さんの心中にある針が少し、これで妥結の方向に振れたようでありました。
「でもう一回だけ粘ってみる方が、今後の展開に於いて色々好都合だと思うけど」
 均目さんが袁満さんのぐらつきにそれとない叱咤を呉れるのでありました。
「そうね。向こうが甘くないと観測する前に、こっちが甘くないところを先ず見せておかないとね。あたしもここはもう一粘りする方が良いと思うわ」
 那間裕子女史も考えとしては均目さんに同調するようでありました。
「どうしますかねえ?」
 袁満さんが横瀬氏に意見を求めるのでありました。
「まあ、向こうの回答がこれ以上動く可能性は低いと思うけど、しかし、この回答を突っ返して三次回答を要求するかどうかは、当該が判断する事だからねえ」
 どうやらこの件に自分の意見はものさないと云う了見のようであります。
「じゃあ、決を採ろう」
 袁満さんはもう一度全員を見回すのでありました。「妥結する方に賛成の人は?」
 先ず頑治さんがおずおずと手を挙げるのでありましたが、それに続いて躊躇いがちな素振りで出雲さんも挙手するのでありました。
「三次回答を要求するのに賛成の人は?」
 これには均目さんと那間裕子女史が即座に賛意を表明して、それを見定めてから袁満さんも徐に右掌を肩の辺り迄挙げるのでありました。と云う訳で、二対三でこの二次回答は拒否して三次会等を求めると云う意志に決するのでありました。
 三階の事務所に戻ると袁何さんが代表してその旨を社長に通告するのでありました。社長は腕組みして、下唇を突き出して渋い表情をして見せるのでありました。土師尾営業部長はそんな社長の様子を見てから同じような渋面を作り、片久那制作部長は如何にも不愉快そうに眉根を寄せてから、眼鏡の奥の瞼を閉じるのでありました。
「団交の回数を重ねれば重ねるだけ、段々と額が増えていく訳じゃないよ」
 社長は忌々しそうな語調で精々の嫌味を云うのでありました。
「そんなつまらない駆け引きをしようとしているんじゃなくて、この二次回答でも未だ々々、我々の希望する妥結額には遠く及ばないと云う事ですよ」
 袁満さんはそっぽを向きながら、如何にもクールな物腰を装ってそう云い放つのでありましたが、社長の嫌味は、狙ってかそうでないかは置くとしても、ちゃんとこちらの魂胆をたじろがせる程度に的を射ていて、袁満さんは思わずどぎまぎして仕舞って、そのための目の動揺を見せまいとしてそっぽを向いたのでありましょう。

 二回目の団交も結局決裂で終わるのでありました。反省会及び次の三次団交に向けての打ち合わせのために、組合員はこの後件の居酒屋に流れるのでありました。
(続)
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