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あなたのとりこ 275 [あなたのとりこ 10 創作]

 均目さんが袁満さんと那間裕子女史の間に割り込むのでありました。「まあ、片久那制作部長の気分には戦々恐々、と云ったところは俺達全員に、あるにはあるけれども」
「そんなに恐れているのなら役職手当を基準内に入れて置く方が無難じゃないの」
 派江貫氏が揶揄するような云い草をするのでありました。
「まあ、従来から役職手当を加えた額でボーナス、じゃなかった一時金を計算していたんだし、役職手当を加えると云う事で纏めた方が良いんじゃないの、ここは」
 袁満さんが大した問題じゃないんだからと云った一種野放図な感じで、さっさと結論を付けて仕舞いたそうにそう提案するのでありました。
「家族手当はどうするんですか?」
 均目さんがその野放図さに少し苛々したような口調で訊ねるのでありました。
「役職手当も家族手当も、となるとなかなか社長は呑みにくいでしょうね。片久那さんと土師尾さんにしたら、内心その方が嬉しいかも知れないけど」
 那間裕子女史が難色を滲ませるのでありました。
「何れにしても現在の俺達には役職手当も家族手当も関係無いんだから、態々ここでああだこうだと議論をするよりは、簡単に役職手当にしといて良いんじゃないのかな」
 袁満さんはこれまた呑気な意見をものすのでありましたが、これは一時金なるものがどのような性格を持つのかその意味に関わる事で、面倒臭いからと議論を打ち切るのは、何やら労働組合の会議にしては軽率なような気が頑治さんはするのでありました。
「要求提出迄そんなに時間がある訳じゃないから今紛糾するよりはその問題は今後に、と云う事にして今回は基準内は基本給プラス役職手当と云う線で行く方が良いかな」
 来見尾氏が誘導的に操提案するのでありました、労働組合の元締め側の人が一時金なるものの性格をはっきりささるよりは、ここは袁満さん同様、先を急ぐ方が得策と考えるようでありますから頑治さんの一言の出番は消滅するのでありました。
「じゃあ、決を採ろう」
 袁満さんが提案するのでありました。「役職手当を加算する方に賛成の人は挙手」
 真っ先に勢い良く手を挙げたのは決を採ろうと発議した当人たる袁満さんで、その後に出雲さん、那間裕子女史、均目さんと続き、最後に頑治さんが、敢えてここで反対の声を挙げても仕方が無いだろうと、皆よりは威勢悪くじわりと挙手するのでありました。
「全会一致で基本給プラス役職手当を一時金や時給算定の元になる基準内とします」
 袁満さんが宣すると空かさず派江貫氏と来見尾氏が、良し、と小声で発声するのでありました。この手の会議での労働組合的合いの手に未だ慣れていない初心な従業員五人は、声を出す期を逸してモジモジと居心地悪そうに居住まいを正すのみでありました。

 会議の後、外部の三氏を除いた社員五人で、那間裕子女史の発案に依り神保町駅近くの居酒屋に立ち寄るのでありました。誰も明快にそう云いはしないものの、山尾主任が欠けた後の初会議が滞りなく終了した事の祝杯、と云う意味合いでありますか。それに山尾主任の居ない五人で酒席を囲むのはひょっとしたら初めての事でありましたか。
(続)
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