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あなたのとりこ 268 [あなたのとりこ 9 創作]

「大学院で科学、しかも色んな史学の中でもとりわけ唯物的な考古学をやっている研究者にしては、嫌に観念論的な見解だな。何となく夕美から、運命、とか云う言葉を聴くのは、尻の辺りがムズムズするような気がするけど」
 自分の秘かな松葉占いの件はすっかりさて置いて、頑治さんとしてはそんな揶揄をものすのが精一杯というところでありましたか。
「だからさ」
 夕美さんは頑治さんの茶々を無視して続けるのでありました。「あたしは、頑ちゃんとどんなに遠くに離れていても、頑ちゃんの声が何時も間近で聞けないとしても、でもそんなのに関わり無く、将来必ず頑ちゃんと結ばれるの」
 夕美さんはそう云って、別に照れる風でも無く頑治さんの顔を一直線に見てニコニコと笑い掛けるのでありました。何と云うタフさ、そしてまた、可憐さでありましょう。頑治さんは全く以ってタジタジと、且つ恍惚となるのみでありました。

 夕美さんはまた指先でヘアピンを弄ぶのでありました。
「今ね、県立博物館とウチの大学の考古学教室が協力して、田舎にある弥生遺跡の大掛かりな共同発掘調査の話しが進んでいるの」
「ふうん、そうなんだ」
 急に夕美さんがそんな話しを始めたものだから、頑治さんは恍惚の上の空から現実の夕美さんとの炬燵の差し向かいの場面に引っ張り戻されるのでありました。
「あたしが県立博物館でこの四月から働き始めると、その共同発掘調査の仕事に回される事になる筈よ。これはほぼ間違いないの」
「そりゃそうだろうな。夕美は博物館に就職する迄ずっと、共同調査する相手の大学の考古学教室に在籍していたんだから、博物館にとっても大学にとっても、他の誰よりも打って付けの担当と云う事になるになるだろうしね」
「そうね。そう云う点もあたしが博物館から期待されている部分でもある訳よ」
「また良いタイミングで博物館は夕美と云う人材を獲得したものだな」
「そうなるとね、・・・」
 夕美さんはヘアピンの尻で炬燵の上板をワルツのリズムのような三連打で、複数回軽く叩きながら続けるのでありました。「あたしは発掘調査が終わるまでこれから屡、多分年に二三回は、大学や文部省とかの担当課に、出張する機会があると思うの」
「へえ。それなら時々はこっちで逢える訳だ、上手くすると」
 頑治さんは指をパチンと鳴らすのでありました。
「そう云う事。だから例えばゴールデンウィークとか夏休みとかお正月とかにも、プライベートであたしが東京に出て来るとして、そうすると頑ちゃんとは少なくとも三か月に一回くらい、ひょっとすると二か月に一回くらいの割合で逢えるって云う算段になるんだけどね。そのくらいのペースで逢えるのなら、それは今迄のように逢いたい時に何時でも会える、という訳じゃないけど、でも、そんなに寂しくないかなって思うのよ」
(続)
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