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あなたのとりこ 260 [あなたのとりこ 9 創作]

「要するに盟主になりたい訳ね。でもなんでそんなに盟主になりたがるのかしら?」
 那間裕子女史が先程より少し角度を増して首を傾げるのでありました。
「反対派を自分達の下に纏める事で敵と取引するためさ。その取引に於いて仲間から出る否を強圧的に封じ込められるし、益々ヘゲモニーは強化されると云う寸法だ」
「取引、って何?」
「条件闘争の条件取引さ」
「何だか良く判らないわね。条件取引、って?」
「色んな政治課題の中で、ここは譲るから見返りにこれを寄越せとか、反対デモを終息させて反対派を封じ込めるから代わりに、こちらの出した条項を法案の中に盛り込めとか、まあ、そう云った条件の売り買いみたいな事だよ」
「それは政治の中では良くある事じゃないの?」
「確かにね。でもあそこの政党は自分達の利益最優先で、反対派の中の他の会派に涙を飲ませるような事を強圧的にやるんだ。若し内部で自分達の意向に背く団体や個人が在ったら、それを徹底的に弾圧する。本来の敵よりも酷薄にね。そのために主導権闘争には何をさて置いても全力を傾けるんだ。盟主の座を断固守るためなら何でもする」
「ふうん。そんなものかしらね」
 那間裕子女史は半信半疑と云った顔つきで頷くのでありました。
「そいで以って自分達の努力で、これこれこう云う成果を立派にかち取ったのだと意気揚々と喧伝するんだ。そのために犠牲にした仲間に一顧も与える事無くね」
 均目さんはそこで如何にも嫌悪丸出しの表情をして見せるのでありました。

 ジントニックを一口飲んで、均目さんは続けるのでありました。
「片久那制作部長なんかはあの政党が大嫌いだよ。名前を聞いただけで何か天敵を思い浮かべるみたいに憎悪を剥き出しにするな。さっき云ったような遣り口で学生運動のヘゲモニーを握ろうとしてくるから、色々煮え湯を飲まされたんだろうな。インチキ左翼と詰るのはその時の経験があるからだろうな。あの政党は右翼よりも憎いという感じだな」
「それは要するに左翼同士の内ゲバみたいな感じ?」
「いや、片久那制作部長に依ると路線とか闘争方針の違いとかじゃなくて、もう、裏切り者と云う規定じゃないかな。最も不謹慎で陰湿な贋左翼、と云ったところかな」
「ふうん。あたしにはそんなの、何となくピンとくる話しではないけど」
 那間裕子女史はここで手にしていたグラスをグッと空けるのでありました。「ところで均目君は、嫌に片久那さんの事についてあれこれ詳しいのね。あたしは片久那さんの大まかな経歴とかしか知らないけど、そんな話しを何時片久那さんとしているの?」
 那間裕子女史がそう聞いた時、一瞬均目さんがたじろぐような色を眼中に浮かべたのを頑治さんは見逃さないのでありました。
「ほんの偶に皆で飲む時があるだろう、その折にちょっと話すだけだよ」
 均目さんの口調は多少しどろもどろに聞こえない事も無いのでありました。
(続)
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