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あなたのとりこ 257 [あなたのとりこ 9 創作]

 この遣り取りを山尾主任は全く無言で傍観しているのでありました。しかし自分の抜けた後の委員長ポストが決まった事に一先ず安堵したような様子でありました。

 那間裕子女史が舌打ちした後で、手に持ったグラスに残っていたジントニックを一息でグイと飲み干すのでありました。
「全く無責任で好い加減なんだから」
 那間裕子女史は飲んだ後の吐息に乗せてそう吐き捨てるのでありました。
「山尾主任も相当に追い詰められていたんだよ」
 均目さんが宥めるように話し掛けるのでありました。「仕事でもプライベートでも」
「自業自得でしょう」
 那間裕子女史は寸分の同情すら見せないのでありました。
 緊急の会合の後、例によって那間裕子女史と均目さん、それに頑治さんの三人で新宿の何時もの洋風居酒屋で飲むのでありました。
「山尾主任は明日から会社に出て来ないんだよね?」
 頑治さんが均目さんに確認するのでありました。
「明日は出て来るんだろうな。あれこれ仕事の引継ぎなんかもあるだろうし」
 均目さんはそう云ってから近くを通ったウエイターに、那間裕子女史と自分の分のジントニックのお代わりを注文してから先を続けるのでありました。「明後日からは有給休暇の残りを消化すると云う名目で出てこないという事だったよね。で、辞める一月二十日の日に私物の整理もあるから出社すると云う話しだったけど」
「仕事の引継ぎと云っても、それは殆ど必要無いんじゃないかな。日比課長と一緒に動いていたんだから、日比課長が大体は掌握しているだろうし」
「ま、それでも明日は出て来るんじゃないの」
「出て来ても居辛いし、周りもどう接して良いのか困るし、仕事の引継ぎも無いのなら、明日も出社する意味なんか実のところは無いのよ。まあ、新しい仕事になって早々に逃げ出して仕舞う会社への引け目があるから、一応来るのかも知れないけど」
 若し山尾主任が聞いたら立つ瀬も無い居た堪れないような事を口角に上せながら、那間裕子女史が話しに加わるのでありました。
「那間さんは山尾主任に対して優恤の気持ちは微塵も無いのかな?」
 均目さんが首を傾げるのでありました。
「ま、色々気の毒には思うけど、でも、結局自分で招いた結果だもの」
「仕事が替わったのは山尾主任のせいじゃないぜ」
「そう云うけどさあ、制作の仕事で片久那さんの期待に応えるような仕事振りじゃなかった事とか、気質や性格の不一致のために片久那さんに何となく疎まれたのは、半分くらいは山尾さんのせいだと云う云い方も、まあ、出来るんじゃないの」
 那間裕子女史はまるで、大いに曖昧且つ、世間で屡使用されるところの夫婦の離婚理由のような事をものすのでありました。
(続)
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