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あなたのとりこ 251 [あなたのとりこ 9 創作]

「結局山尾主任は何の方策も打てなかったのかな」
「いやそうでもない、と云えばそうでもないしけど、・・・」
 均目さんは言葉を中断して、困惑気に何度か目を瞬いて、何故かその先を続けるのを躊躇うような気配を見せるのでありました。
「何かしらの手は勿論打ったんだろうなあ」
「手を打ったと云うのは適切な表現じゃないかな」
 均目さんは再度この先を続けて良いものかどうか少し躊躇うように、一拍の間を置くのでありました。「大いに悩んで考えた方策と云うのが、まあ、何と云うのか。・・・」
「何だよ、思わせぶりだな。で、山尾主任はどんな対処をしたんだい?」
 頑治さんは先をせっつくのでありました。
「山に行ったんだ」
「ふうん。二人で山に登った訳か」
 頑治さんは、山尾主任は新妻さんと二人で共通の趣味である山登りをして、何時もとはガラっと違う環境で二人でじっくり話しをして、関係を修復しようとしたのだろうと咄嗟に考えたのでありました。しかしどうやらそんな訳ではないのでありました。
「いや、山尾主任一人で山に行ったんだよ」
「一人で? 何だいそれ」
 頑治さんは呆れるのでありました。「それが何の解決を導くんだい?」
「自分の心の整理をしようとしたんだろうな、多分」
「何云ってんだい。それじゃ単なる遁走じゃないか」
 頑治さんは吐き捨てるのでありました。
「俺に怒っても仕方が無い」
 均目さんは頑治さんの初めて見せる剣幕にたじろぐのでありました。
「ああいやご免。均目君に怒っているんじゃないよ、勿論」
「俺も正直呆れたよ。何を考えているんだこの人はってね。本気で新妻さんとの関係を修復する心算があるのかしらって。がっかりしてこっちの力が抜けたくらいだ」
「下らん。無意味と云うのも馬鹿らしい」
 そう云って舌打ちした後で頑治さんは前に会社に居た刃葉さんを思い浮かべるのでありました。刃葉さんはよく、下らん、と独り言をしていたのでありましたか。
「ここが正念場だと云うのに、或る意味、好い気なもんだよな」
 均目さんもそれ以外の言葉が無いと云った風でありましたが、しかしこの後ほんの少し山尾主任の了見の解説を試みるのでありました。「一人で山に登って心の整理をしたら、その後新妻さんとの話し合いに臨もうと云う目論見だったのかも知れないけど」
「そうだとしても、悠長と云うのか、呑気と云うのか、ピンボケと云うのか」
「確かに山登りなんかに行っている場合じゃない。先ずやる事は、間違いなく山登りじゃない。でも山尾主任は真っ先にやる事として山登りを選んだんだ」
「若しもそうだとしたなら、もう、付ける薬は無いな」
(続)
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