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あなたのとりこ 236 [あなたのとりこ 8 創作]

「ええまあ、そんな感じでもあります」
「組合結成の事がバレたんじゃないだろうね」
 横瀬氏の横に居る派江貫氏が云い出すのでありました。「そのために経営が、見せしめのために画策した予防上の報復措置、とは考えられないのかな」
 そう云われて外部の三人以外の一同は互いの顔を見合わせるのでありました。
「いや、バレてはいないでしょう。我々もその点は気を付けているし」
 山尾主任が外部の三人以外を代表するような形で応えるのでありましたが、それはやや力強さに欠ける云い方ではありましたか。
「本当に大丈夫なんだろうね?」
 派江貫氏は少々脅迫的な物腰で念を押すのでありました。
「仕事中は組合の、く、の字も口にしないようにしていますから」
「それはそうかも知れないけど、何かの拍子にうっかり、とか無いだろうね?」
「それは、大丈夫だと、思いますよ」
 この山尾主任の応えも確信を持ってと云う風ではないのでありました。
「山尾さんはそうかも知れないけど、他の人は大丈夫なんだろうね?」
 派江貫氏は山尾主任以外の一同に疑いの視線を投げるのでありました。那間裕子女史はその視線を煩そうに無視するためかそっぽを向くのでありましたし、袁満さんはおどおどと目を逸らすのでありました。出雲さんも袁満さんと同様の反応を見せるのでありましたし、頑治さんは無表情に派江貫氏をぼんやり見ているだけでありましたが、一人均目さんだけが眉間に皺を寄せて派江貫氏に挑むような目を向けるのでありました。
「そう云う疑いは心外ですね」
 均目さんは不機嫌に云うのでありました。「俺達が組合に関してド素人だからって信用していないんだろうけど、云って良い事と悪い事の判断くらいは付きますよ」
「いや、信用していない訳じゃないよ」
 派江貫氏は均目さんの剣幕に少したじろぐのでありましたが、意地っ張りだからすぐに体勢を立て直して均目さんを逆に見据えるのでありました。
「組合結成前に経営側にこの事が知れると、経営側は決まって潰しにかかって来る。先ずは人事で威嚇するのが連中の常套手段だからね」
「それはちょっと考え過ぎでしょう」
 均目さんは決然と首を横に振るのでありました。「土師尾営業部長と社長辺りが経営不振からジタバタ足掻こうとして発動したと云うのが、今回の人事異動の目論見の実際でしょう。連中は我々が組合結成を画策しているとは全く気付いていないでしょうね」
「そう断言出来るんだな?」
「世の中に、絶対、なんて云うのは存在しないものですよ」
 均目さんはからかうような余裕の笑みを片頬に浮かべるのでありました。「でも、俺の観測に先ず間違いはないと思いますね。第一、社長や土師尾営業部長が従業員の言動や心根に殊更の関心があるとは思えないし、あの二人は迂闊な人達ですから」
(続)
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