SSブログ

あなたのとりこ 222 [あなたのとりこ 8 創作]

 山尾主任は旅行から帰ったら那間裕子女史と均目さんへのこれまでの仕事の引き渡し、新しい営業部仕事の日比課長からの引継ぎ、それに労働組合結成のための準備と大忙しになるでありましょう。先行きの不安で一杯と云った有り様でありましょうから、とても新婚気分を謳歌、とはいかないのは気の毒であると頑治さんは同情するのでありました。全く間の悪い巡り合わせでありますが、何とか切り抜けて貰いたいものであります。
「山尾主任は営業に移るけど、待遇面では今迄と変わらないらしいよ」
 頑治さんは均目さんからそんな事を訊くのでありました。「主任手当の四千円はその儘貰えるらしいし、新たに家族手当が、配偶者だから八千円付くと云う話しだ」
「条件としてそのくらいはして貰わないとね。これで主任手当てもカットとなると、踏んだり蹴ったりと云った按配だろうしなあ」
 頑治さんは山尾主任の気持ちを慮るのでありました。
「まあ、主任手当はその儘で減額されないけど、役職としては主任と云う訳ではなく平の社員になるようだぜ。名目の上では、まあ、降格だな」
「給与の減額が無いと云う事が、営業に移るのを承諾する条件だったのかな」
「居酒屋で片久那制作部長から縷々説得されて、その条件は保証して貰ったらしい」
「山尾主任が居なくなると制作部もこれから大変かな」
 頑治さんが訊くと均目さんはすぐに頷かないで考える風を見せるのでありました。
「人が減れば残った人間の仕事量は増えるのは当たり前だけどね」
 この均目さんの応え方は然程の気持ちの負担は無いような云い草であります。「でも俺に関して云えば、製作工程の管理の仕事を山尾主任に代わってやる事になる訳だけど、今迄山尾主任がやっていたような仕事なら俺にでも、明日からでも充分熟せそうな気がするけどね。そんなに複雑多岐に亘る面倒臭い仕事でもなさそうだったからね」
「でも、山尾主任がやっていた今迄のような仕事振りより、もっと能動的で自主的な、片久那制作部長の指示を待っていたり、色んな面でその手を煩わせなくとも済むような、自律的な仕事振りを期待されているんだろう?」
「はっきりそう釘を刺された事は無いけど、まあ、そう云う期待もあるんだろうな」
「あれこれ大変だろうけど、ま、頑張ってくれよ」
 頑治さんはこの言葉が、均目さんを適当にあしらうような調子に聞こえないように少し気を遣った語調で云うのでありました。
「唐目君も多分これから製作関連の仕事を多く云い付かる事になるぜ」
「そう云えば片久那制作部長にそんな事を云われたなあ」
「片久那制作部長は唐目君を大いに買っているみたいだぜ。何を頼んでもそつ無く熟すし丁寧だし手際も良いし、面倒で複雑な仕事でもきっちり期待通り、いや、期待以上の結果を出すし。片久那制作部長は将来、唐目君に制作部に来て貰う心算でいるんじゃないのかな。俺や那間さんなんかより余程有能で育て甲斐があると見ているような気配だ」
 そう云われて頑治さんは、自分が片久那制作部長に認められていると云う辺りはそんなに悪い気はしないのでありましたが、一方に多少のげんなり感も持つのでありました。
(続)
nice!(12)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 12

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。