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あなたのとりこ 211 [あなたのとりこ 8 創作]

 すぐさま反発の言葉を発しようとしていた山尾主任が、思わずその言葉を飲み込むのでありました。山尾主任だけではなく土師尾営業部長も驚いて身震いするのでありました。他の全員も急に呼吸を忘れるのでありました。
「さっきから好い加減止めろと云っているだろうが」
 片久那制作部長はドスの利いた声で、これははっきりと土師尾営業部長に向かってぞんざいな口調で云うのでありました。土師尾営業部長はオドオドと畏まるのでありました。片久那制作部長の舌打ちが自分達ではなく土師尾営業部長に向けられたものである事がはっきり知れて、ここでようやく他の全員は少し息を吐く事が出来るのでありました。
「この後の話しは、営業部は営業部、制作部は制作部でじっくり詰めると云う事で、時間も大分経ったから今日はこれで散会と云う事にしたいけど」
 片久那制作部長がそう宣するなら勿論誰も異論は吐かないのでありました。

 立ち上がって制作部の自席に戻ろうとする少し憔悴した様子の山尾主任に向かって、片久那制作部長が声を掛けるのでありました。
「山尾君、この後何か予定があるか?」
「いや、別にありませんけど」
「じゃあ、ちょっと話をしたいから、良いかな?」
「ええ、判りました」
 屹度山尾主任が先程提示された配置転換を受け入れやすいように説得、或いはあれこれ説明をしようと云うのでありましょう。
「それから、那間君と均目君、それに唐目君もほんの少し少し良いかな?」
 制作部の三人が呼ばれるのは判るけど、そこにどうして業務の頑治さんが入ったのかはよく判らないのでありました。今度の配置換えには頑治さんは特に無関係のようにも思えるし、直属の上司は片久那制作部長ではなく土師尾営業部でもある事だし。
 那間裕子女史も均目さんも断らないのでありました。頑治さんもその日は特に夕美さんと逢う約束もしていなかったから、云われる儘に制作部の方に向かうのでありました。
 制作部スペースへ向かう後ろの気配でしか判らないのでありましたが、土師尾営業部長もこの後に営業会議を提案したようでありましたが、それは営業部の三人にあっさり断られた様子でありました。それはそうでありましょう。これから土師尾営業部長と喧嘩腰であれこれ遣り取りするのは、営業部の三人にはもうげんなりでありましょうから。それから甲斐計子女史も、大凡自分は関係無いからと早々に退社するのでありました。
「山尾君が抜ける事になったら、仕事の割り振りを再編しなくてはならなくなる」
 片久那制作部長が自席に着いてから、前のライトテーブルを囲むように立った三人に云うのでありました。「既存の地図や出版物、それに他の製造物の修正作業や管理は、山尾君が担当していた分は那間君が引き継ぐ事として、制作仕事の発注先や発注タイミングとかの管理は当面、主に均目君にやって貰う事になる。良いかな?」
 何となくぶっきら棒な云い方であるのは、この人の何時もの物腰でありますか。
(続)
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