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あなたのとりこ 186 [あなたのとりこ 7 創作]

「じゃあ、取り敢えずは委員長が俺で副委員長が袁満君、それから書記が那間さん、会計担当が唐目君、均目君と出雲君が執行委員と云う人事案は承認と云う事で良いかな?」
 山尾主任が先ずそちらの方の了承を全員に求めるのでありました。那間裕子女史が異議無しの態度を表すると他の連中も積極的な反応ではないにしろ頷くのでありました。
「それから組合費の一パーセント徴収の件はどうかな」
 こちらも積極的賛成とは云い難いながらも全会一致で了承されるのでありました。ここ迄がその会議の主な議題と云うところでありましたか。外部の横瀬氏も派江貫氏も木見尾氏も基本的な事項が先ずは決まった点に概ね満足の様子でありました。

 この後は少しの雑談時間となるのでありました。
「それにしても今季の暮れのボーナスには参ったよなあ」
 袁満さんが愚痴を零すのでありました。「歳が越せないよ、これじゃあ」
 前に可処分所得との絡みで、年が越せない、と云う不満表現の言葉は現実の置かれている境遇に鑑みると、あんまり適切とは云えないと云う話しを喫茶店でしたのを頑治さんは思い出すのでありました。その折袁満さんは成程と納得したとばかり思っていたのでありましたが、しかし袁満さんは性懲りも無くまたここであっけらかんとそう云う表現を用いるのでありました。単なる迂闊からなのか、それとも心底から先の会話を納得した訳ではなかったと云う事なのか、その辺の袁満さんの心根は良く判らないのでありました。
「袁満さん、今のご時世、そう云う表現は苦境の表現としては現実味も説得力にも欠ける、と云う事を前に話したじゃないですか」
 均目さんがその辺りを指摘するのでありました。頑治さんと同じで均目さんも袁満さんの粗忽にちょっとがっかりしたのでありましょう。
「ああそうだったっけ」
 袁満さんは特段恥じる様子も無くのんびりした口調で云って、別に頭も掻かないのでありました。もう前の話し等すっかり忘れている様子であります。
「歳が越せないとか、生活が出来ないとか云う言葉は団交の場で我々も良く使うよ」
 派江貫氏が均目さんに反駁するのでありました。その語調の挑みかかるような感じや軽くあしらおうとする色合いから察すると、派江貫氏は先程の均目さんとの遣り取りから、均目さんの事をどうやら胡散臭い、気に障るヤツだと思いなしたようでありました。
 派江貫氏の気分が均目さんにも充分伝わるものだから、均目さんとしても対抗上竟々、遠慮無しの挑戦的な物腰になるのでありました。
「今だにそう云う苔の生えたような常套句を日常的に遣っているようだから、特に若い者の間で労働組合離れが起こっているんじゃないですかね」
「どう云う事だ?」
 派江貫氏が少しムキになるのでありました。
「あなただって現実の問題として、食うや食わずの生活を送っていらっしゃる訳ではないでしょう。着ている服もセンスと云う点は別にして、一応パリッとしているし」
(続)
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