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あなたのとりこ 185 [あなたのとりこ 7 創作]

「唐目君の仕事振りは手堅いし律義だし、信頼感もあるからうってつけだと思うけど」
「そうですかねえ」
 頑治さんは那間裕子女史のこの評価に戸惑うのでありました。前に会社に居た刃葉さんと比べればそれは確かに堅実な仕事振りかも知れませんが、しかしそれはあくまでも刃葉さんとの比較の上に成り立つ印象であって、自分の仕事振りが世間一般の評価軸の上ではそんなに堅実であるとは頑治さんには思われないのでありました。
 那間裕子女史は単に面倒な金銭管理の仕事を免れたいがために、頑治さんをここで煽ててその気にさせようとしているに過ぎないと思われるのであります。
「と云う事で、執行委員は均目君と出雲君の二人と云う事にして、会計の仕事を唐目君がやると云う事で構わないわよね?」
 那間裕子女史は頑治さんの意向を無視して山尾主任に訊き糺すのでありました。
「それは別に構わないけど、どうかな、唐目君は?」
 山尾主任は頑治さんに小首を傾げて見せるのでありました。頑治さんは急いで執行委員の仕事と会計の仕事のどちらが億劫でないかを頭の中で考えてみるのでありました。
 走り使いのような仕事よりは机上で計算をしていれば良いのでありますから、身体的には会計仕事の方が楽でありましょう。それにメンバーは六人だけなのでそんなに多額の金銭を管理すると云う訳でもないでありましょう。逐次の帳簿付けは小煩いとしても。
「俺は執行委員でも会計でもどちらでも構わないですよ」
 この話しの流れの中でこう返事すると云うのは、会計の仕事に就く事を承諾した事になるのだろうなあと、頑治さんは云いながら思うのでありました。
「じゃあ、これで決まりね」
 那間裕子女史は満足気に笑むのでありました。
「ところで、管理する金銭と云うのは、今のところ何も無いですよねえ?」
 頑治さんが山尾主任に訊くのでありました。
「そこなんだけど、・・・」
 山尾主任はそう呟いて机上の紙にチラと目を遣るのでありました。「この十二月の給料から、支給額の一パーセントを活動費として徴収したいんだけど」
「え、支給額の一パーセントを徴収?」
 袁満さんが少したじろいだ顔をするのでありました。「手取り額の一パーセントですか、それとも税金や保険料とか諸々を引かれる前の、額面の一パーセントですか?」
「基準内賃金の一パーセントだよ」
「何ですか基準内賃金と云うのは」
「一時金や時給算定の元になる賃金だよ。ウチでは基本給に役職手当を加えた額」
「へえ、それを基準内賃金と云うんですか。迂闊にも初めて聞く言葉だ」
 袁満さんは見開いた目で瞬きを繰り返しながら頷くのでありました。
「あれこれお金もかかるだろうから、それは仕方が無いわね」
 那間裕子女史は意外にあっさり、納得気にこちらも頷くのでありました。
(続)
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