あなたのとりこ 171 [あなたのとりこ 6 創作]
「それはそうですけど、でも上部組織になる全総連の事も詳しく知らないし」
「全総連は日本に在る労働組合連合組織の中では二番目に大きい組織です」
横瀬氏がここで全総連について解説を始めるのでありました。「一番大きな組織は全日本労働組合総協議会、所謂労総協で、これは皆さんご存知でしょう?」
「良く春闘の時期やメーデーでテレビに取り上げられる組織ですよね」
袁満さんがあっけらかんとした笑みを浮かべて応えるのでありました。
「そうですね。これが組織的には一番大きい。その次に大きいのが全総連です。尤も三番目以下はそんなに大きな組織ではないので、今の労働界は労総協と全総連が二大組織と云う事になりますか。我々もテレビに屡登場しますよ」
横瀬氏はここで自信有り気に頷くのでありました。
「勿論その名前を聞いた事はあるわね」
那間裕子女史が頷き返すのでありました。
「どちらかと云うと全総連は政治絡みの活動が多いような印象だなあ」
均目さんは頷かないで云うのでありました。
「いや、特にそんな事はありませんよ。寧ろ既成の左翼政党に深くコミットしているのは労総協の方ではないでしょうかね。実際我々は加盟の組合員がどの政党を支持しようとも何も干渉しませんし、それは至って自由ですから」
「ああそうですかね」
均目さんはこの横瀬氏の言に対して懐疑的な心根を表明する笑みを浮かべるのでありました。少しは全総連に対して知識が有るようであります。
「まあ、強い労働運動を展開するためには、場合に依ってはどうしても既存の野党勢力と共闘する事も必要ですからね、しかし政党支持とか政治思想に関しては原則自由です」
「でも全総連の活動方針に異を差し挟まない限り、と云う事ですよね」
「それは勿論、組織防衛と団結を維持するためにはそうなります。しかしそれは組織である以上当たり前の事で、全総連に限らず色んな組織は一般的にそうですよ」
「一方では全総連は組合員への政治的縛りが一番きついと聞きますが?」
「いやそんな事はありませんよ。団結力の強さから、外からはそう見えるとしても、全総連はどの労働組合連合組織よりも民主的に運営されていると明言しておきます」
横瀬氏は別に慌てた風でも急に興奮した風でもない物腰ながら均目さんを見据えて、ここは有無を云わさないような迫力を言葉に籠めて断言するのでありました。
「ああそうですか」
その迫力にたじろいで及び腰になった訳ではないでありましょうが、均目さんは一先ずそれ以上の言を重ねないのでありました。
この二人の遣り取りの間、頑治さんを含めて他の連中は口を挟む期を逸して、戸惑ったような表情でダンマリを決め込んでいるのでありました。何やら自分達には埒外の、小難しい話しが展開されているようだと云った心持ちでありましたか。
(続)
「全総連は日本に在る労働組合連合組織の中では二番目に大きい組織です」
横瀬氏がここで全総連について解説を始めるのでありました。「一番大きな組織は全日本労働組合総協議会、所謂労総協で、これは皆さんご存知でしょう?」
「良く春闘の時期やメーデーでテレビに取り上げられる組織ですよね」
袁満さんがあっけらかんとした笑みを浮かべて応えるのでありました。
「そうですね。これが組織的には一番大きい。その次に大きいのが全総連です。尤も三番目以下はそんなに大きな組織ではないので、今の労働界は労総協と全総連が二大組織と云う事になりますか。我々もテレビに屡登場しますよ」
横瀬氏はここで自信有り気に頷くのでありました。
「勿論その名前を聞いた事はあるわね」
那間裕子女史が頷き返すのでありました。
「どちらかと云うと全総連は政治絡みの活動が多いような印象だなあ」
均目さんは頷かないで云うのでありました。
「いや、特にそんな事はありませんよ。寧ろ既成の左翼政党に深くコミットしているのは労総協の方ではないでしょうかね。実際我々は加盟の組合員がどの政党を支持しようとも何も干渉しませんし、それは至って自由ですから」
「ああそうですかね」
均目さんはこの横瀬氏の言に対して懐疑的な心根を表明する笑みを浮かべるのでありました。少しは全総連に対して知識が有るようであります。
「まあ、強い労働運動を展開するためには、場合に依ってはどうしても既存の野党勢力と共闘する事も必要ですからね、しかし政党支持とか政治思想に関しては原則自由です」
「でも全総連の活動方針に異を差し挟まない限り、と云う事ですよね」
「それは勿論、組織防衛と団結を維持するためにはそうなります。しかしそれは組織である以上当たり前の事で、全総連に限らず色んな組織は一般的にそうですよ」
「一方では全総連は組合員への政治的縛りが一番きついと聞きますが?」
「いやそんな事はありませんよ。団結力の強さから、外からはそう見えるとしても、全総連はどの労働組合連合組織よりも民主的に運営されていると明言しておきます」
横瀬氏は別に慌てた風でも急に興奮した風でもない物腰ながら均目さんを見据えて、ここは有無を云わさないような迫力を言葉に籠めて断言するのでありました。
「ああそうですか」
その迫力にたじろいで及び腰になった訳ではないでありましょうが、均目さんは一先ずそれ以上の言を重ねないのでありました。
この二人の遣り取りの間、頑治さんを含めて他の連中は口を挟む期を逸して、戸惑ったような表情でダンマリを決め込んでいるのでありました。何やら自分達には埒外の、小難しい話しが展開されているようだと云った心持ちでありましたか。
(続)
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