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あなたのとりこ 136 [あなたのとりこ 5 創作]

 その言葉に皆頷くのは敢えて異論が無い故であります。
「先ず、今期のボーナスに対しては一致団結して抗議すると云う点は異議無いかな?」
 ここで那間裕子女史が真っ先に「勿論」と声を発するのでありましたし、続いて均目さんも同様の言葉を発して片手を挙げるのでありました。
 山尾主任は頷いてその後に袁満さんに視線を向けると、袁満さんも多少及び腰を見せながらも無言で頷いて挙手するのでありました。それを確認してから出雲さんの方に視線を移すと、出雲さんは「じゃあ、俺も賛成」と片手を挙げるのでありました。
 最後に頑治さんの方に山尾主任の目が向くのでありました。勿論山尾主任も異議無しの口でありましょうし、ここで頑治さんが不同意を宣したところで多数決でそれは否決されるでありましょう。それに否と云うべき特段の理由も見つからないものだから、頑治さんは控え目な声で「異議は無いです」と応えて頷くのでありました。
「俺も賛成だから、詰まり全会一致で団結して抗議する事は決定でいいね」
 山尾主任が確認のため全員の顔をつるっと見回すと、夫々は不揃いながらも夫々のタイミングで頷いて見せるのでありました。
「じゃあこれから、ボーナスは出るけど極めて少額の場合、それに慰労金名目でそれよりもっと少額が出る場合、それと全く出ない場合とか、色んなケースを想定して、それに相応する抗議の文句とか行動を決定しておきたいんだけど、・・・」
 山尾主任はそこで左腕を顔の近くまで上げて腕時計を見るのでありました。「しかし、もうすぐ昼休み終わりの一時になって仕舞うなあ」
 その言葉に夫々も云われて今気付いた、と云った仕草で自分の腕時計に目を遣るのでありました。確かに残り十分足らずで昼休みが果てる時間でありました。
「じゃあ、どうするの?」
 那間裕子女史が眉間に皺を寄せて山尾主任を見るのでありました。時間が無くなった事に付いて山尾主任を詰っているような目付きだと頑治さんは思うのでありました。しかしこれは致し方無いでありましょう。それで山尾主任を責めるのは些か理不尽と云うものでありますか。昼食後の数十分間に話しをするにしては少し事が大きくなったのでありますし、抗議する事を決定しただけでも集まった甲斐はあったと思うべきでありますか。
 まあ、那間裕子女史も別に詰る心算は毛頭無いのかも知れません。その顔つきや物腰が頑治さんにはそう見えたと云うだけなのでありましょうが。
「それじゃあ、仕事が終わってから夕方、何処かで集まるか」
 山尾主任が云ってまた夫々の顔を順に見回すのでありました。
「いや、今日は俺、都合が好くないですね」
 出雲さんが顔を顰めるのでありました。
「あたしも今日は語学学校があるから、会社が終わったら急いで仙川まで行くし」
 那間裕子女史がその後に続くのでありました。
「俺も明後日から信州出張に出るから、出来れば早く家に帰りたいかなあ」
 袁満さんも首を横に振るのでありました。
(続)
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