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あなたのとりこ 127 [あなたのとりこ 5 創作]

 こちらの方にも那間裕子女史は辛辣でありました。「どんどん新規を開拓しようと云う気も無いし、向こうに何か云われたりしたら云われたなりにオタオタしているし」
「まあ、広いエリアを車で順に回って、と云う昔の富山の薬売りみたいな仕事だから、顔出しの頻繁さも限界があるし、持ち込む商品の数にも限りがあるからね」
 均目さんが袁満さんと出雲さんの肩を持つのでありました。
「電話と云う道具があるんだから、それを上手に使って、もっと効率的に出張営業すれば良いのよ。仕事に何の工夫もしないで相も変わらず非効率な事ばっかりしているんだもの。それじゃあ売り上げも何も延びる訳がないわ」
 那間裕子女史はもどかしそうな口調でそう云うと、近くを通ったウェイターにジントニックのお代わりを注文するのでありました。
「でも袁満さんや出雲さんのお得意先だろう地方の旅館とかお土産屋さんから、小口ながら品物を送ってくれと云う注文の電話も結構頻繁にあるじゃないですか」
 頑治さんが自分の発送仕事の実体からそんな事を云ってみるのでありました。
「そう、電話注文で在庫のフォローは出来るのよ。それなのに態々車で回って品物を置いて来るなんて仕事も同列にやっているのよ。非効率極まり無いわ。その分の余力を新規開拓に回せばもっと売り上げは伸びる筈じゃない」
「まあ、それは考え方としてはそうだけど、でも旅館やお土産屋は相当種類の商品を扱っているから、ウチの商品が在庫薄になったってそれはそれでほったらかしにされるかも知れない。ウチの商品がその店の中で断トツの売り上げがあるのならば兎も角、全体の売り上げから見たらウチのが品切れしたとしても然して影響がないとなれば、放置されてその儘縁切れになって仕舞う事だってあるさ。そうならないために顔出しも必要だろうし」
 均目さんが多少及び腰ながら食い下がるのでありました。
「それはそうだけど、つまり要は効率の問題だと云っているのよ」
 那間裕子女史は新たに頼んだジントニックが自分の前に置かれると、早速そのグラスを取り上げて一口付けて口の中を湿らせるのでありました。「注文数をちゃんと管理出来ていればその辺の動向とかは掌握出来る筈よ。ぼちぼち必要だなと判断した時に効率的に顔出しすれば良いのよ。そのくらい頭を使っても良いんじゃないのって話し」
「でも商売相手はかなりの遠隔地にあるんだから、顔出しが必要な所が丁度その出張時に同じルート上に固まっているとは限らない。一軒の遠く離れた顔出しが必要な店のためにそこまで車を走らせるのは、それこそ非効率と云うものじゃないかな」
「だから要するにちゃらんぽらんじゃなくて、頭を使って手際良く営業しろって事」
 那間裕子女史も引き下がらないのでありました。
「制作部の俺達があれこれ営業の仕方に口を出すのは僭越と云うものじゃないかな。営業は営業で俺達の計り知れないような小難しい苦労もあるんだろうから」
「進取の気概とか工夫とかが無いのよ、ウチの営業には。だから売り上げが落ちてもオロオロするだけで、今までやっていた事を修正する思考力とか勇気が無いの」
「そう云うのなら、那間さんが営業をやってみれば」
(続)
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