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あなたのとりこ 119 [あなたのとりこ 4 創作]

 刃葉さんが居なくなって何となく社内が落ち着いたと思ったのに、今度は冬のボーナスカットと云う問題が間を置かず出来するのでありました。頑治さんは陰鬱な気分になるのでありましたが自分だけ蚊帳の外で知らん顔をしている訳にもいかないでありましょう。あんまり気乗りはしないものの、山尾主任に誘われた従業員会合には出なければならないでありましょう。慮れば何かとゴタゴタの多い会社に入ったものであります。

 この水曜日の会合は会社近くの居酒屋で執り行われるのでありました。例に依って頑治さんの歓迎会が開かれた人生通りに在る居酒屋でありました。
 先ずは何となくビールで乾杯してから、料理が出て来る迄、付き出しとして供された牛蒡の削ぎ切りの甘辛煮に銘々は箸を付けているのでありました。
「さて、今日集まって貰ったのは冬のボーナスの件なんだけど」
 山尾主任が早速、主たる話題を切り出すのでありました。その声にテーブルを囲む全員が自分の小鉢から目を離して顔を上げるのでありました。
 この面子の中では山尾主任が一番年嵩であるために、畢竟この人が話しをリードする役回りとなるのでありましたし、それには全員特段の異議は無いのでありました。
「本当に冬のボーナスは出ないの?」
 那間裕子女史が山尾主任に、一応と云った語調で訊ねるのでありました。頑治さんはこの那間裕子女史とは、同じ制作部に属している均目さんとは違って出退社時に挨拶を交わす程度しか今迄会話をした事は無いのでありました。
「日比さんの話しだとそう云う事らしいね。なあ、袁満君」
 山尾主任は隣に座る袁満さんを見るのでありました。
「そうですね、俺は土師尾営業部長がそう云ったって日比さんから聞いたけど」
 袁満さんが頷くくのでありました。
「それは別にきっぱり確定的に云ったんじゃなくて、日比さんの営業に喝を入れる心算で、そんな可能性もあるぞって、そんな風なニュアンスだったんじゃないかしら?」
「いや、日比さんの話しでは、出さない事に決まったようだったですけどねえ」
「本当に日比さんは決定事項として冬のボーナスが出ないと聞かされたのね?」
 那間裕子女史は念を押して訊き募るのでありました。
「いやまあ、俺はその場に居た訳じゃないからその様子は何とも云えないけど、でも日比さんの口振りではもうすっかり決定した事と云った調子でしたけど」
「あれこれ自分への批判を並べられて日比さんがちょっと興奮して仕舞って、うっかり決定事項と云う風に聞き取って仕舞っただけ、なんて云う事はではないのね?」
「さあ、まあ、それは、・・・」
 袁満さんはしつこく詰め寄られてたじろぐ気配を見せるのでありました。
「日比さんは、決定事項、とかそんなような言葉を使ったの?」
「いや、そうじゃないけど、冬のボーナスは出ないらしいよって、・・・」
 段々袁満さんの口から出る言葉が曖昧の色を濃くするのでありました。
(続)
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