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あなたのとりこ 117 [あなたのとりこ 4 創作]

「誰の売り上げがどのくらいあるとか、数値としてはっきりしているのかな?」
「その辺は結構曖昧かな。出張営業は分担があるけど、日比課長と土師尾営業部長に関しては大まかにと云うのか、何となく担当はあるみたいだけど、どの会社が何方の担当とはっきり区分してあると云う訳でもないようだし。まあ、全日本地名総覧社時代から取引のある会社は、主に土師尾営業部長が総取りで受け持っていているようだけど」
 その辺の詳しいところは制作部の均目さんは知らないようでありました。日比課長にでも直接聞いてみないと明快には判らないでありましょう。
「売り上げがガクンと落ちた事に関して土師尾営業部長は、ちゃんと具体的で妥当な分析をしてから、自分の反省と共に日比課長に苦言を呈したのかな?」
 頑治さんが首を傾げて均目さんを見るのでありました。
「その辺は確認してはいないけど、まあ、自己反省は無いだろうな。例に依ってザックリとした自分に都合の好い感触と、このタイミングで少し日比課長を脅して置いてやろうと云う不埒な魂胆から、思いつきで急に喫茶店に呼び出したんだろうけどね」
 均目さんは皮肉っぽい笑いを口の端に浮かべるのでありました。「あの人は自分の保身を目的に他人を大した考えも無しに排斥するところがある。先ず以って自分の責任逃れのために日比課長をやり玉に上げようとしたんだと思うね。あの人の常套手段だよ」
「しかしさっきの説明に依ると、得意先の分担がはっきりしていないと云う事だから、売り上げ低迷の責任は、半分くらいは土師尾営業部長にもある事になる訳だよな」
「その通り」
 均目さんは確然と頷いて見せるのでありました。「しかし何でも手前味噌にしか考えない土師尾営業部長は、責任をすっかり日比課長の方に押し付ける心算なんだろうな」
「それは余りにも無体と云うものじゃないかな」
「その通り」
 均目さんの頷き様は先と同じでありました。
「その無体さは日比課長も判るだろうから、反発しないのかな」
「内心は大いに反発しただろうよ」
「内心は、と云う事は面と向かっては反発する言なり態度なりを控えたと?」
「まあ、多分そうだろうな」
 均目さんの口の端に今度は苦笑が浮かぶのでありました。「日比課長は土師尾営業部長をえらく軽蔑しているくせに、何故か実際の態度や言動は妙に遜っているんだ」
「ふうん。それはまたどうして?」
「ま、こちらも一種のサラリーマン的保身だろうけど。或いはひょっとしたら土師尾営業部長に決定的な弱みか何かを握られているのかもね」
「そうなのかい?」
「いやこれは俺の何の根拠もない好い加減な憶測以上ではないけど」
 均目さんの口の端には今度は自嘲の笑みが浮かぶのでありました。「でも、確かに日比課長は必要以上に土師尾営業部長にオドオドしているよなあ、どんな場合でも」
(続)
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