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あなたのとりこ 81 [あなたのとりこ 3 創作]

「給料に高額な役職手当を付けるためさ」
 均目さんは鼻を鳴らすのでありました。
「そんな理由かい」
 頑治さんは少し呆れ顔をして見せるのでありました。
「そう云うけど、これは正真正銘の理由だぜ」
「聞いてもまあ仕様が無いけど、役職手当は幾らなんだい?」
「前に何かの折に経理の甲斐さんから聞いたところに依れば、営業部長が十万円で制作部長が九万円、課長手当が二万円で、それに主任手当が五千円と云う事だ」
「何か妙に等比性が無いね、その金額の数列は」
「それはそうさ。役職手当は土師尾営業部長と片久那制作部長のためのもので、他の人はまあ、云い訳のためにつけ足ししたような按配だもの」
 均目さんはコーヒーを一口啜るのでありました。
「片久那制作部長の方が会社の実質上のトップだと云うのなら、どうして土師尾営業部長より一万円少ない額なんだい?」
「そこが片久那制作部長の、云ってみれば小狡い目論見と云うところかな」
「小狡い目論見?」
「一万円の格差で土師尾営業部長を奉って置けば、自分は社長との折衝とか同業他社なんかとの付き合いとか色んな制作仕事以外の煩わしい仕事を免れるし、何かあった時に矢面に立つのを避けられると云う魂胆なんだろうな」
「ふうん。で、その役職手当の額は詰まり片久那制作部長が決めたのかい?」
「そうらしいな。実質上のトップだからね。土師尾営業部長は片久那制作部長を畏れて止まないからそう云われれば何も逆らえないし、自分の方が一万円多い訳だから不満を云う筋合いも無い。寧ろ片久那制作部長から社員の中の主席だとお墨付きを貰ったんだと、都合の良い勘違いが出来るんだから、全く以って満更でもない心地がしたろうよ」
 何やらちょっとした通俗喜劇によくある配役設定のようで、頑治さんとしては俄かには信用も出来ないような気がするのでありましたが、まあ、あんまり興味を惹く内容でも無いものだから敢えて異を差し挟むような真似は慎むのでありました。
「会社の賃金体系は大方片久那制作部長が決めているのかな?」
「そうだね。土師尾営業部長にはその辺の定見や能力は無いからね」
 頑治さんは誰がどのくらいの賃金を貰っているのかが気になると云うより、賃金体系に一定の整合的基準があるのか、それとも片久那制作部長の恣意に依って決められているのか、その辺に多少の興味はあるのでありました。まあ、新米の自分が一番低い給料であるのは当たり前でありましょうし、制作とか営業とか経理とか業務の職種によって賃金が異なると云う事も多分あるとしても、まさか露骨に久那制作部長の人の好き嫌いが基準になっていると云うのは幾ら何でも考え辛い事ではあります。ならば曖昧であれ社員間の納得が前提にあるとすれば、その辺の機微をちゃんと片久那制作部長が考慮の上で各々の賃金を決めているのかどうかは、片久那制作部長の人となりを見る材料にはなりますか。
(続)
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