あなたのとりこ 73 [あなたのとりこ 3 創作]
一人は大柄で四角い顔に黒縁の、レンズの部分が細い眼鏡を掛けていて一番地味な服装をしていて、その故かこの三人の女性の中で一番年嵩に見えるのでありました。もう一人は最初に現れた女性に小柄で太りじしの体型も顔付きも歳頃も近似していて、この二人は如何にも姉妹であると明快に判る様相をしているのでありました。容貌にも年齢にも似合っていないと頑治さんには思われるのでありましたが、金赤色の地に大きなテディーベアの絵の入った派手なダブダブのTシャツなんぞを着ているのでありました。
二人は如何にも好奇心たっぷりの目で頑治さんを見ているのでありました。新米の若いのが来たぞと教えられて、どれどれと値踏みに遣って来たに違いないと頑治さんは推察するのでありました。無遠慮を隠さない女性達の視線に頑治さんはたじろぐのでありましたが、素知らぬ風の無表情でそのネバつく視線を遣り過ごしているのでありました。
荷も積み終えて刃葉さんと最初に現れた女性が納品書と受領書の遣り取りをしているところに、大柄黒縁眼鏡が言葉を発するのでありました。
「この前云って置いたビニール紐はちゃんと持ってきた?」
刃葉さんはそう云われて口を開けて驚きの表情をして見せるのでありました。
「ああそうか。済みません、忘れました」
「矢張りねえ。そうだろうと思った」
大柄黒縁眼鏡は嘆息するのでありました。「相変わらず抜けているんだから」
「済みません」
刃葉さんは動揺を隠すためか愛想笑いながら深くお辞儀するのでありました。「若し足りなくなるようなら今日中に持って来ますが」
「いいわよ、またウチまで往復するのは大変でしょう。来週までは何とかなると思うからこの次で良いわ。でも来週こそ忘れないで持ってきてよ」
「判りました。必ず持って来ます」
この返事を傍で聞きながら、刃葉さんの事だからせめてメモでもして置かないとまた屹度忘れるに違いないと頑治さんは思うのでありました。
「ところで新人さんは、歳は幾つ?」
赤Tシャツが頑治さんの方に視線を向けるのでありました。
「二十三になります」
後々の付き合いもあるから無愛想の儘だと拙かろうと考えて、頑治さんは頬の表情筋を緩めてそう応えるのでありました。
「ふうん。刃葉君と同い歳になるの?」
「いや、俺の方が一つ上です」
刃葉さんが横から云うのでありました。すると赤Tシャツは急に不興気な面持ちになって羽場さんの方に黒目を動かすのでありました。聞いているのは頑治さんに、であるから羽場さんはお呼びじゃないと云う慎につれない興醒めの表情でありましょう。
「その前は何やっていたの?」
「はあ、まあ、学校に行っていました」
(続)
二人は如何にも好奇心たっぷりの目で頑治さんを見ているのでありました。新米の若いのが来たぞと教えられて、どれどれと値踏みに遣って来たに違いないと頑治さんは推察するのでありました。無遠慮を隠さない女性達の視線に頑治さんはたじろぐのでありましたが、素知らぬ風の無表情でそのネバつく視線を遣り過ごしているのでありました。
荷も積み終えて刃葉さんと最初に現れた女性が納品書と受領書の遣り取りをしているところに、大柄黒縁眼鏡が言葉を発するのでありました。
「この前云って置いたビニール紐はちゃんと持ってきた?」
刃葉さんはそう云われて口を開けて驚きの表情をして見せるのでありました。
「ああそうか。済みません、忘れました」
「矢張りねえ。そうだろうと思った」
大柄黒縁眼鏡は嘆息するのでありました。「相変わらず抜けているんだから」
「済みません」
刃葉さんは動揺を隠すためか愛想笑いながら深くお辞儀するのでありました。「若し足りなくなるようなら今日中に持って来ますが」
「いいわよ、またウチまで往復するのは大変でしょう。来週までは何とかなると思うからこの次で良いわ。でも来週こそ忘れないで持ってきてよ」
「判りました。必ず持って来ます」
この返事を傍で聞きながら、刃葉さんの事だからせめてメモでもして置かないとまた屹度忘れるに違いないと頑治さんは思うのでありました。
「ところで新人さんは、歳は幾つ?」
赤Tシャツが頑治さんの方に視線を向けるのでありました。
「二十三になります」
後々の付き合いもあるから無愛想の儘だと拙かろうと考えて、頑治さんは頬の表情筋を緩めてそう応えるのでありました。
「ふうん。刃葉君と同い歳になるの?」
「いや、俺の方が一つ上です」
刃葉さんが横から云うのでありました。すると赤Tシャツは急に不興気な面持ちになって羽場さんの方に黒目を動かすのでありました。聞いているのは頑治さんに、であるから羽場さんはお呼びじゃないと云う慎につれない興醒めの表情でありましょう。
「その前は何やっていたの?」
「はあ、まあ、学校に行っていました」
(続)
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