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あなたのとりこ 25 [あなたのとりこ 1 創作]

 頑治さんが掃除している間、刃葉さんは外出のため途中で止めていた梱包仕事を、精を出す、と云うよりは如何にも精を出し惜しみするような風情で続けるのでありました。持って帰って来た紙包みから紙のガムテープを取り出すところを見ると、仕事を途中で放り出して喫茶店でコーヒーを飲むために外出していたのではなく、梱包途中で切れて仕舞ったガムテープを買いに外出していたのでありましょう。
 粗方の掃除を終えた頑治さんは箒と塵取りをロッカー横に戻して、懸案の見取り図を描こうとするのでありました。作業台は刃葉さんの梱包仕事に占領されているから使えそうにないので、台の引き出しから刃葉さんに断った上で太字用の黒と赤のマジックペン、それに黒と赤のボールペンを取って倉庫奥に行くのでありました。奥の棚の空いているスペースで刃葉さんとは離れて自分の仕事に取り掛かろうと云う寸法であります。
 頑治さんは先ずうろちょろと歩いて棚の位置や段数を確認して、それを平面図として厚紙に丁寧に描き入れて順番に番号を振るのでありました。それから棚の列ごとに「上・下」と赤色で描き加えるのでありました。三段になっている棚は「上・中・下」であります。これで棚の識別は完了であります。材料関係と製品関係の別は整理されずに棚の中に混然となっているようなので、敢えて描き加えないのでありました。
 今度はその棚の識別を、山尾主任に貰っていた製品と材料の一覧表にボールペンで書き記すのでありました。これもうろちょろして在り処を確認しながらでありました。今まで見た事もない部材もあって、山尾主任に案内された時にうろ覚えで、記してある材料かどうか判然としない品もあるのでありましたが、これは後で山尾主任に確認であります。
 大方の作業を終えて作業台の方に戻ると、刃葉さんが荷造りを終えて運送会社に渡す発送伝票を書いているのでありました。ちらと手元を覗き込むと刃葉さんは意外に綺麗な字を書いているのでありましたし、字の並びもギクシャクしてはいないのでありました。こんな律義らしい字をものす同じ人が、倉庫の整理整頓に関しては全く無精で何の意も用いないと云うのは、一体全体どういう了見に依るのでありましょうや。まあ、それとこれとは無関係だと云われれば、そう云うものかと納得するしかないのでありますが。
「これを作業台の前に暫く貼って置いて良いですか?」
 頑治さんは台に接した前の棚の梁を指差すのでありました。刃葉さんは顔を上げて頑治さんが左手に持つ厚紙を見るのでありました。
「何だいそりゃあ?」
「倉庫の棚の見取り図です」
 刃葉さんはそう聞いても関心無さそうに、ふうん、と口を尖らせるのでありました。
「別に俺は構わないからご自由に」
 何となく冷ややかな云い草でありました。倉庫を一から十まで取り仕切っている自分にはそんなものは無用だと云う事でありましょうか。
「ちゃんと頭に入ったら外します」
「ああそう」
 あくまでもそんな事には全く興味が無いと云った様子であります。
(続)
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