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あなたのとりこ 24 [あなたのとりこ 1 創作]

 とまれ頑治さんは貰った作業服と厚紙を手に今度は一人で下の倉庫に戻るのでありました。見取り図を描き終えた後は商品や材料をもう一度念入りに確認したり、刃葉さんの梱包仕事を手伝ったりするようにと土師尾営業部長から指示もされるのでありました。

 土師尾営業部長から頑治さん専用の倉庫の鍵を受け取って下に行くと、またもや刃葉さんの姿が見当たらないのでありました。扉は半開きで鍵も締めていないのは先程と同じであります。今度もまた喫茶店に行ったのでありましょうか。
 頑治さんは土師尾営業部長から使って構わないと許しを得た、作業台後ろの片隅にあるスチール製の三連ロッカーの一番右側の扉を開くのでありました。そこには大き目のデイパックが無理矢理と云った感じで押し込められていて、恐らく刃葉さんの物と思われる焦げ茶色のジャンパーが針金のハンガーに吊り下げられているのでありました。ここは刃葉さんが自分のロッカーとして使用しているのでありましょう。
 真ん中には新品の結束バンドやらバンド締めの工具やら凧糸の束やら金槌やらスパナやら、何に使うのか白樫の木刀やらボクシングのグローブやらが乱雑に入れてあって、これも頑治さんの使用を拒んでいるのでありました。左のロッカーには下に古新聞の束が積んであるものの、大方の空間は空いているのでありました。
 ロッカー内は何となく薄汚れた感じで、一張羅の背広の上着をそこに入れて置くのは思わず及び腰になるのでありましたが、しかしここしか使えるスペースはなさそうなので、頑治さんは上着を脱いで中に一本吊ってあった針金ハンガーに掛けるのでありました。それから作業服をビニール袋から取り出して袖を通すのでありました。
 ビニール袋を棄てようとゴミ入れを探すのでありましたが見当たらないのでありました。作業台の上と云わずその近辺の床と云わず、結束バンドの切れ端やら丸めた古新聞やら使い損ねたバンド締めの金具やら、ボロ布やら菓子パンの包装紙やらストローを差した儘のコーヒーの紙カップやらが散乱していて、云ってみればこの倉庫全体がゴミ入れのようでありますから、敢えてゴミ箱なんぞは必要ないとも云えるでありましょうか。
 棚の見取り図描きに取り掛かる前に、幾ら無精な頑治さんでもここは先ず掃除から始めなければと云う気が起るのでありました。こんな不潔で雑然とした中では仕事する意欲も湧かないし捗りもしないと云うものであります。
 ロッカー横に無造作に投げ出されたようにあった箒と塵取りで床を掃いていると、刃葉さんが紙袋を抱えて戻って来るのでありました。刃葉さんは掃除をしている頑治さんを見てやや不愉快そうな顔をするのでありました。ひょっとしたら頑治さんの掃除する姿が、自分の怠惰、或いは整理整頓能力の欠如に対する当て付けと映ったのかも知れません。
「どうせまた散らかるんだから掃除なんて無駄だぜ」
 刃葉さんは作業台の隅に、抱えていた紙袋を置きながら云うのでありました。
「はあ、まあ、しかし」
 頑治さんは掃除を続けるのでありました。まるで仕事上の必然として散らかるような云い草でありますが、十の内の八は刃葉さんの不心得が散らかしているのであります。
(続)
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