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お前の番だ! 598 [お前の番だ! 20 創作]

「あれ、あゆみ先生はどうされたのですか?」
 迎えに出た来間教士が不思議そうな顔をするのでありました。
「ちょっと、体調が優れないようだから、朝一で病院に寄ってから来るそうだ」
「珍しくお風邪ですかね?」
 これは万太郎の靴を下駄箱に仕舞いながら云う真入の言葉でありました。
「多分そんなところだろう。微熱があるようだし」
「今日は少年部の稽古もないですから、お休みになられても大丈夫ですよ」
 来間が気遣うのでありました。
「その辺はあゆみも知っているから、病院の診断次第で自分で決めるだろう。それより朝食の用意はどうなっているのか?」
「もう大岸先生にあらかた調えて貰っています」
 大岸先生はこのところ毎日万太郎とあゆみが来る前から出張って来ていて、自分も含めて六人分の朝食の用意を手伝ってくれているのでありました。そのお蔭であゆみが来た時には、ほぼ支度は整っていると云う按配でありました。
 恐縮ではあるものの、あゆみとしては慎に好都合と云う寸法であります。しかし大岸先生としても、大勢で摂る朝食を自分も楽しみにしていると云った様子でありましたか。
「真入、あゆみの代わりに大岸先生の後の手伝いはお前がやれ」
 万太郎が命じると真入は一瞬及び腰を見せるのでありましたが、これは本人に料理なんぞと云う仕事が、嫌いであると同時にその才能もないと云う自覚がある故でありました。しかし総務長の云いつけであるし、重要な内弟子仕事の一つでもある事は判っているから、すぐに顔色を改めて押忍の発声の後に素直に台所に走るのでありました。
「真入に任せて大丈夫ですかね?」
 来間が不安を表明するのでありました。
「ま、大丈夫、だろう、・・・多分」
「真っ黒焦げの鯵の開きとか、煮え滾った味噌汁とかが出て来るんじゃないですかね」
「大岸先生が大方に目を光らせているから大丈夫だろう、多分。・・・」
 台所の大岸先生に一礼して感謝の言葉を発してから、万太郎は居間に座っている是路総士の前に正坐して、朝の挨拶とあゆみの遅参を報告するのでありました。
「ほう、微熱があって体調が優れないのか。あゆみにしては珍しいな」
 是路総士は特段強く心配する風もなくそう云って頷くのでありました。
「昨日から体の調子が悪そうだったの?」
 大岸先生が炊事の手を暫し休めて居間の方に来るのでありました。その間真入に調理を任せて大丈夫だろうかと万太郎は頭の隅で少し心配するのでありました。
 チラとそちらを窺うと来間がガスコンロの前に立つ真入の横で、あれこれ指図しているのでありました。傍で見ていて来間も心配になったのでありましょう。
「いや、今朝になって急にそんな感じでした」
 万太郎は大岸先生に向かって云うのでありました。
(続)
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