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お前の番だ! 588 [お前の番だ! 20 創作]

「つまり万太郎は、結局二人の人間を心服させる事に成功したのかも知れないな」
 是路総士がまた湯呑を口に持っていくのでありました。勿論もう一人とは、万太郎にぶん投げられて総本部に入門し、今では内弟子になっている真入増太であります。
「実際のところ、僕は若先生に対してそんな手応えは全く感じなかったのですがね。まあ、真入に対しても、同じだったのですが」
「それは当人としてはそんな実感は持たないのが当たり前だろう。実際、しようと画策して手練手管で相手を心服させる事は出来ないだろうし、若しそれが出来たとしても、それは心服と云うよりは、人の心を騙取したと云うだけの行為だ」
 是路総士はそう云って茶を啜ってから、万太郎の方に笑みかけるのでありました。「お前はそんな策術を弄する程に器用な人間でもなかろうし」
「押忍。その通りではあります」
 万太郎は是路総士に頷いて見せるのでありました。その是路総士の言葉は万太郎に対する一種の褒め言葉と取って構わないだろうと、下げた頭の隅で考えるのでありました。
「しかし結局、万太郎は威治君と真入の心を見事に捉えた事になるのかも知れない」
「僕は殊更グッとくるような事を、若先生に云った覚えは全くないのですが」
「でも後で考えてみて、グッときたのかもしれないわ」
 あゆみが円らな目で万太郎の顔を覗きこんで云うのでありました。
「僕は総士先生にあの時、若先生を心服させて来いと云って送り出されたのでしたが、そうならば、ひょっとしたらそのお云いつけに応える事が出来たのかも知れませんね。まあ、今の段階では、そう云う可能性があるとだけしか云えないでしょうが」
「そうね。威治さんから祝電が来たと云う事実だけではね」
「それにあの場には洞甲斐先生も居たし真入のお兄さんも居たし、それに洞甲斐先生のお弟子さんらしき人が二人いましたから、それらの人には何の反応も起こさせ得なかったと云う事になります。六人中四人は無反応ですから僕の霊力も大したことはないです」
「六人中二人も心服させ得たのなら、大したものだとも云える。ま、未だ威治君の心服を得たとは断じ難いが、しかし真入一人は、瓢箪から駒ではあるが、万太郎にぞっこん惚れたのは事実だ。たった一人でも心服させ得ればそれは見事と云って良いだろうよ」
 是路総士はそう云ってからあゆみの方に視線を移すのでありました。「ああそうそう、お前の横でももう一人、お前にそっこん心服したヤツが茶を飲んでいる」
「あら、あたしの事?」
 あゆみが慌てて湯呑を口から離すのでありました。「あたしは、・・・八王子の件よりもずっと前から万ちゃんにグッときていたから、今の勘定の他よ」
 あゆみはしれっとそんな事を口走って、また湯呑を口に当てるのでありました。
「それなら僕は、あゆみさんよりももっと前からあゆみさんにグッときていましたからと、一応念のためその事実はここで申し添えておきます」
 これは是路総士にそう訴えているのか、あゆみにそう云っているのかよく判らないような万太郎の云い様でありましたか。
(続)
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