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お前の番だ! 586 [お前の番だ! 20 創作]

「どうかな。ご存知じゃないのかも知れないですね。その話しは道分先生からすぐに、なかった事にしてくれと云う申し出がありましたからね」
「しかし親子兄弟なんだから、知らない事もないように思うが」
「いや、若しご存知だったら返って、若先生に祝電を打て等と指示はされないでしょう。お兄さんはその辺の機微に関しては弁えのある方のようですし」
「そうね。それもそうよね。第一お兄さんの指示と云うものも、全くの推察なんだし」
 あゆみが綿帽子を被った頭で頷くのでありました。
「まあそれは取り敢えず置くとしても、祝電披露の時、この電報も一応紹介するか?」
 良平が司会役として確認を取るように万太郎に目を向けるのでありました。
「貰っておいて、若先生の名前だけ紹介しないと云うわけにはいかないでしょう」
「それもそうだが。・・・」
 良平はあゆみの方をちらと窺うのでありました。
「万ちゃんの云う通りだとあたしも思うわ」
 あゆみは良平に一つ静かに頷いて見せるのでありました。
「ああそうですか。まあ、あゆみさんがそう云うのなら」
 良平は何となく大儀そうに万太郎から電報の紙を受け取るのでありました。「しかし一応、総士先生には、予めその旨断りを入れておくよ」
「総士先生も、別に拘りにはならないと思いますよ」
 万太郎には是路総士が、ああそうか、とだけ云って全く無表情に軽く頷く様子が見えるようでありました。ここは余り色々考え過ぎないのが自然でありましょう。
 それやこれやもありながら結婚式も無事に終わって、万太郎とあゆみは是路総士と伴にタクシーで総本部道場に引き上げて来るのでありました。二人は次の日から信州木曽路へ、二泊三日で新婚旅行に出発すると云う段取りでありました。
 帰りつくと留守を預かっていた来間が真入と一緒に玄関で出迎えるのでありました。
「押忍、ご苦労様でした」
 来間はそう云って先ず是路総士に立礼してから、万太郎とあゆみに何となく眩しそうな視線を送るのでありました「総務長先生、あゆみ先生、お目出とうございます」
「押忍、有難う」
 万太郎は少し格式張ったお辞儀を来間と真入に返すのでありました。あゆみも、有難う、とものしながら万太郎と一緒に頭を下げるのでありました。
「稽古は滞りなく終えたか?」
 是路総士が来間に聞くと、来間はすぐに是路総士の方へ体ごと向くのでありました。
「押忍。無事に終了致しました」
 その日は来間が臨時に、道場での稽古一切を取り仕切ったのでありました。教士となった来間は、もう何度か中心指導を経験した事があるのでありました。
 万太郎とあゆみ、それに是路総士は取り敢えず居間で寛ぐのでありました。風呂の前に是路総士は来間に茶を一服所望するのでありました。
(続)
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