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お前の番だ! 585 [お前の番だ! 20 創作]

 この真入は意外に少年部には人気者なのでありました。さして子供あしらいが上手いと云うのではないのでありますが、子供がどんなに手荒な戯れを仕かけていっても、それをその巨体故に蚊に集られた程度にビクともせず受け止め、何時もニコニコして小言一つも云わない辺りが、子供にとっては大いに懐きやすいのでありましょう。
 その顔と風体から真入は子供が嫌いであろうと万太郎は踏んでいたのでありましたが、これも豈図らんや、来間なんかよりも余程人気者になって、真入自身もそれが満更でもないような様子なのであります。序に云えば少年部の統率者たるあゆみに対しても、万太郎の奥方でもある事から、真入は不謹慎な態度なんぞは絶対取らないのでありました。
 真入は内弟子になって上手く周囲と馴染めるかなと、万太郎が危惧していたのも事実ではありましたが、今までちゃらんぽらんに生きてきた自分の人生の、恐らくここが先途と云う強い覚悟が本人にあるためなのか、なかなかへこたれないところなんぞは実に見事なものと云うべきであります。真入がその覚悟を忘れずに真摯に、且つ大過なく内弟子を務め上げて、将来一廉の武道家として立つ事を万太郎は祈るのでありました。

 さて話は遡るのでありますが、万太郎とあゆみの結婚式当日、全く意外な仁から祝電が舞いこんできたのでありました。その意外な仁とは威治元興堂流宗家でありました。
 八王子での一件以来、全く音沙汰がなくなっていたのでありましたが、これまたどう云う風の吹き回しでありましょうや。それに一体何処から、万太郎とあゆみが結婚すると云う一事、それに式の日取り等を聞きつけたのでありましょうや。
 その辺りは、威治元宗家の兄上には興堂範士との因縁から招待状を送ってあったので、屹度その線からであろうと推察できるのでありました。しかしまさか祝電を寄越す等とは万太郎もあゆみも思いだにしていなかったのでありました。
 結婚式は新宿の某ホテルで執り行われたのでありましたが、披露宴の始まる前にその日司会を頼んでいた良平に控え室で、ホテルの担当から託されたと云ってその祝電を見せられたのでありましたが、万太郎とあゆみは顔を見あわせて唸るのでありました。
「何やら隠れた意趣があっての事かな?」
 良平が机上に置いた祝電を人差し指で数度軽く叩きながら云うのでありました。
「さあ、どうでしょうかね」
 万太郎は小首を傾げて見せるのでありました。
「自分の名前を見せる事で祝賀気分に少し水を差してやろうとか、嘗てあゆみさんにふられた恨みに面当てしてやろうと云う、陰湿で惰弱な魂胆と受け取れない事もないな」
「しかし文面はごく普通で、お決まりのものですね」
 万太郎は電報を手に取ってそれを読みながら云うのでありました。
「お兄さんに云われて、仕方なく義理から出したんじゃないかしら」
 あゆみが由来を忖度するのでありました。
「しかしお兄さんは嘗て威治元宗家が道分先生を伴って、無茶な縁談話しを総本部に持ってきたと云う経緯を知らないのでしょうかねえ」
(続)
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