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お前の番だ! 582 [お前の番だ! 20 創作]

 その大岸先生と是路総士でありますが、この二人の取りあわせなんと云うものは、こうして一緒に過ごす時間が多くなってみると、それは長年添い慣れた夫婦の趣なんぞも、あると云えばあるような具合でありましたか。まあ、惚れた腫れたの感情は別としても、何となくお似あいの二人だと云う風情は万太郎もあゆみも感じているのでありました。
「この頃お父さんの顔がやけに柔和になったのは、屹度大岸先生にあれこれ身の回りの世話を焼いて貰っているせいかも知れないわね」
 二人のアパートに帰って来て、コーヒーを飲みながら寝る前の一時を寛いで過ごしている時に、あゆみが万太郎に云うのでありました。
「大岸先生の方も嫌にいそいそと、自分じゃなければ務まらないみたいな感じで、前のあゆみなんかより余程甲斐々々しく総士先生の面倒を見ているところがあるな」
 万太郎はこの頃ようやくあゆみと敬語抜きで会話出来るようになっているのでありましたし、名前を呼び捨てにも出来るようになっているのでありました。流石は熊本の男とあゆみは妙な褒め方をするのでありましたが、万太郎としては道場での体裁もあるので、ぎごちないながらも努めてそうしていてようやく慣れたと云った按配でありますか。
「そりゃあ、娘のあたしは時々面倒臭くて邪険にも扱うわよ」
「あの二人、ひょっとして、ひょっとするかも知れないなあ」
「それ、二人が結婚するかも、って云う事?」
「その芽もないとは云えない」
「なかなかそこまで踏ん切りがつかないかも知れないけど、全くないとも云えないかも」
「そうなったら、実の娘たるあゆみはどんな心境かな?」
「大岸先生なら勿論大賛成よ」
 あゆみは片手を上げて人差し指と親指で丸を作って、OKのサインを万太郎に見せるのでありました。親指人差し指以外の三指が如何にもピンと天に伸びて立っている辺りに、あゆみの大乗り気が示されているように万太郎には見えるのでありました。
「まあ、今後の展開を注視、と云うところかな」
 万太郎とあゆみがそんな秘かな期待を抱いていても、そうはトントン拍子に事は進展しないもので、大岸先生と是路総士にしても、分別盛りもとうに過ぎた齢となっては、それ以上の発展は望んでいないような風情もあるのでありました。まあ、こればかりは万太郎とあゆみの統御不能の事であるのは全く以って当然であります。

 さて、是路総士に依る万太郎への秘伝伝授が完了すると、総本部の体制が一新されるのでありました。是路総士、それに鳥枝範士と寄敷範士はその儘現職に留まるのでありましたが、万太郎は範士兼総本部道場総務長及び財団常務理事となり、あゆみと花司馬教士が新たに範士及び財団の平理事に、来間が教士扱いに格上げされるのでありました。
 万太郎の総務長と云うのは是路総士が宗家になる前に就いていた職名で、将来の総士を継ぐ者としての役職呼称であります。これで次期宗家は万太郎が継ぐと云う既定路線が、内外に公言されたと云う事になるのでありました。
(続)
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