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お前の番だ! 560 [お前の番だ! 19 創作]

 来間が云うように確かに無愛想面で玄関に仁王立ちししている男が誰であるのか、万太郎はすぐにピンとくるのでありました。それは昨日八王子の洞甲斐氏の道場に居た、洞甲斐氏の甥でずんぐりむっくりとノッポ兄弟の、ノッポの方なのでありました。
 昨日の今日、こうして早速に万太郎を訪ねるのと云うは一体どういう了見なのでありましょうか。昨日万太郎に手酷く投げられた意趣返しにでも来たのでありましょうや。
 そうなら返り討ちにするまでと万太郎は眼光鋭く廊下に隙なく立ってノッポに警戒の眼差しを向けるのでありました。ノッポはそんな万太郎に及び腰になるのでありました。
「誰かと思ったら、昨日の、ええと、・・・」
 万太郎は名前を思い出そうとするのでありましたが、そう云えば確か洞甲斐氏からも聞かない儘であったし、本人も名乗らなかったのでありました。
「真入増太と云います」
 ノッポの云い様がやや恐縮の物腰であるのが意外と云えば意外でありましたか。それから察するに、これは単に意趣返しに遣って来たと云うのではなさそうでもあります。
「ああ、その真入さんが一体何の用事で訪ねていらしたのかな?」
 万太郎は警戒を緩めずに、しかし静穏な口調で訊くのでありました。真入増太は万太郎の静けさに返って怖気立ったのか、身を竦ませるような様子を見せるのでありました。
 それから何を思ったのか、急に玄関三和土にへたりこむように正坐するのでありました。意外な展開に万太郎は、顔に表しはしないものの少し狼狽するのでありました。
「折野先生、俺を、弟子にしてください」
 真入増太は先程の無愛想面を一変させて、血走った目を剥いて思いつめたような顔で万太郎を正坐の儘見上げるのでありました。
「折野先生、どうかされましたか?」
 丁度そこへ来間が顔を出すのでありました。真入増太の不穏な気配が気がかりで、何か一朝事があったら万太郎に加勢すべく遣って来たのでありましょう。
 しかし存外の場面に遭遇して来間は面食らったような目で万太郎を見るのでありました。そんな目で見られても、これは万太郎とて持て余すべき展開と云うものであります。
「万ちゃん、どうしたの?」
 やや遅れてこちらも助太刀の心算か、あゆみも出てくるのでありました。勿論、あゆみが眼前の光景に大いに戸惑う気色を見せるのは来間と同様なのでありました。
「そんな事をしないで、立って貰えるかな」
 困じた万太郎は三和土に降りて、真入増太の上腕に手を回して立たせようとするのでありました。大男であるのでなかなか重いのでありましたが、真入増太はようやくに、万太郎に促されたからと云った風情で立ち上がるのでありました。
「どうか、どうか、弟子にしてください」
 真入増太が万太郎の返事次第では、またも三和土に頽れそうな素ぶりを見せるものだから、万太郎は上腕に回した手の力を緩められないのでありました。
「まあ、ここでは何だから、上がって貰おうか」
(続)
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