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お前の番だ! 555 [お前の番だ! 19 創作]

「ああそうだ」
 あゆみが急に何か思いついたように云うのでありました。「あたしと万ちゃんは、今日どうしても行かなければならない処があって、だから朝の残りの御御御付けと卵焼きでお父さんのお昼を出したら、すぐに出かける心算だったんです。若し良かったら大岸先生、この料理でお父さんのお昼のお相手をして頂けたらとても嬉しいのですけど」
「それは別に構わないけど、でも、不意に来て図々しくないかしら?」
「とんでもない。あたしとしてはその方が有難いと云うものです」
「あらそう?」
大岸先生はニコニコと笑むのでありました。「じゃあ二人はすぐに出かけなさい。総士先生のお昼はあたしが調えるから心配しなくても大丈夫よ」
「え、本当ですか?」
 あゆみが先程鍋の中を覗いた時と同じように、口元で掌をあわせて大袈裟に目を見開いて歓喜の表情を大岸先生に送るのでありました。
「任せといて」
「ご飯はジャーにありますし、卵は冷蔵庫にあります。フライパンは、・・・」
「勝手知ったる他人の家で、フライパンやお皿の在り処、それに総士先生のご飯茶碗もお箸も何処に在るのかちゃんと知っているから、心配しなくても大丈夫よ。それから冷蔵庫の中にある物をちょっとゴソゴソするのを許してね」
「ええどうぞ。何でも使ってください」
「じゃあ、総士先生にそう云ってくるわ。総士先生は控えの間?」
「はいそうです」
 大岸先生は頷くと鍋を持った儘いそいそと食堂を出て行くのでありました。何やら降って湧いた是路総士と二人での昼食のチャンスを大いに喜んでいる風情であります。
 あゆみが万太郎に向かって悪戯っぽい表情で指を鳴らして見せるのでありました。これは慎に好都合な折に好都合な人が来てくれたと云う按配でありますか。
「じゃあ万ちゃん、出かけましょう」
 あゆみが万太郎の袖を引くのでありました。
「それは良いですが、大岸先生にあゆみさんがさっき云った、どうしても出かけなければならない用事なんと云うのは、僕等には今日は特にないと思うのですが。・・・」
「あら、万ちゃんはあたしと出かけるのが嫌なの?」
「勿論そうではありませんが、何となくさっきの云い草では、大岸先生に対して申しわけないような気がチョロッとするものですから」
「ま、良いじゃない。何とかも方便よ」
 あゆみはしれっとしているのでありました。この太々しさは男にはないところであろうと、万太郎はあゆみを含めた女一般に対して些かの畏怖を感じるのでありました。
「ところで、何処に行くのですか?」
「そうね、近所の散歩と云うのもつまらないし、新宿にでも出てみる?」
(続)
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