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お前の番だ! 543 [お前の番だ! 19 創作]

 万太郎が応えると是路総士は二度程頷くのでありました。
「話しは戻るが、お前が訊ねた当初、向こうはどんな感じで迎えたのかな?」
「予め要件を電話しておいたからでしょうが、洞甲斐先生が応対に出てこられて、道場に上がると若先生が道場正面に怖い顔をして座っていらっしゃいました」
「威治君と洞甲斐氏で折角新会派を立ち上げたと云うのに、その直後にお前が私の差し金で、あれこれちょっかいを出しに来たと思ったのだろうなあ」
「ええまあ、概ねそんな感じでしたか」
 万太郎はこの後順を追って向こうでの出来事を、なるべく細かく是路総士に報告するのでありました。是路総士は淡々と、ほぼ無表情でその話しを聞くのでありました。
「ほう、矢張り居ましたか、洞甲斐さんの甥っ子の兄弟が」
 これは普段着とダブルの白背広、それにしくじり兄弟が奥から登場した時の様子を話している時に、花司馬教士が云った科白でありました。花司馬教士は段々と話しが面白くなってきたと云った顔をして、万太郎の次の言葉を待つのでありました
「向こうも名乗らなかったし、敢えて訊きませんでしたから、名前は判りません」
「太っている方が前に相撲をやっていた兄で、背の高い方がプロレス上がりの弟ですね。名前の方は今だに、私も知りませんがね」
 花司馬教士が教えてくれるのでありましたが、万太郎はここでようやくあの二人の兄弟の順を知るのでありました。ずんぐりむっくりの方が童顔でノッポの方が老けた顔立ちであったから、万太郎は逆だと今まで考えていたのでありました。
 それからこの兄弟との一悶着の件では、花司馬教士は万太郎の大暴れに些かの感奮を覚えたようで、万太郎のずんぐりむっくりを制圧してノッポを投げ飛ばした手順やら手応えやら、果ては捌いた角度やら、互いの腰の位置の按配等を微に入り細を穿つ質問等織り交ぜながら聞き入るのでありました。是路総士には万太郎のこの狼藉を咎められるかと思っていたのでありましたが、まあ、降りかかってきた火の粉を払ったと云う文脈で理解してくれたのか、平静な顔の儘特段何も云わずに矢張り淡々と聞いている儘でありました。
「その洞甲斐さんの直弟子の方の二人は、折野先生にかかって来なかったのですか?」
 花司馬教士が万太郎の更なる武勇伝を強請るような顔つきで訊くのでありました。
「いや、こちらも一応用心のため目を向けたら、黒シャツに白背広の人は何か早とちりしたようで、まるで蜘蛛が這って逃げるように道場入口の方に退散して仕舞いました」
「折野先生の強さに度肝を抜かれたのでしょう」
 花司馬教士はそう云って哄笑するのでありました。「で、その逃げるヤツを追い捉まえて、これも中天高く投げ飛ばした、のですかな?」
「いや、そんな事はしませんが、そこに何故か突然、あゆみさんが現れたのです」
 万太郎がそう云って横に座っているあゆみの方に顔を向けると、花司馬教士も是路総士も、万太郎の動作に釣られたようにあゆみを見るのでありました。急に衆目が集まったものだから、あゆみは気後れしたように肩を竦めて下を向いてモジモジと居心地悪そうに、正坐の、揃えた両踵上に置いた尻の位置を少し動かしたりするのでありました。
(続)
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