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お前の番だ! 538 [お前の番だ! 18 創作]

 しくじり兄弟はと云えば、二人身を寄せて居住まい悪く座った儘、項垂れて万太郎と目をあわせないのでありました。二人共意趣返しを試みるには相手が強過ぎると辟易しているようでもあるし、仕返しに及ぶ前にずんぐりむっくりの肘は未だ十全に機能を果たさないだろうし、ノッポの方も受け身を取れずに強打した背中の具合が未だすっかり回復してはいないだろうから、この期は涙を飲むと云ったところなのかも知れません。
 何れにせよ万太郎は壁際の四人にも、目礼を送るのでありました。普段着とダブルの白背広が万太郎の背後に向かって再度、先程と同じようにヒョイと頭を下げてお辞儀するのは、すぐ後ろを歩くあゆみも万太郎に倣って小さく会釈をしたからでありましょう。

 二人並んで西八王子駅まで歩く道すがら、あゆみは恥じたり躊躇ったりするところもなく、万太郎の腕に自分の腕を巻きつけてピタリと身を寄せているのでありました。何はともあれ無事に役目を果たした万太郎を、それはそれはいとおしく思っての事であろうけれど、それにしてもこれは何とも万太郎としては意外であり照れ臭いのでありました。
 だからと云ってつれなくふり解くわけにもいかず、万太郎は閉口するのでありましたが、しかしまあ、決して悪い気分等では勿論ないのでありました。寧ろ寄り添うあゆみの体温を二の腕に感じて、陶然となっていると云うくらいなものであります。
「あたしさあ、本当に心配していたんだからね」
 あゆみが歩きながら万太郎の耳元で云うのでありました。あゆみは万太郎の歩調に自分の足の運びをあわせようとし、万太郎は万太郎であゆみの足取りに添おうとするものだから、いきおい二人の歩行速度は非常にゆっくりとしたものになるのでありました。
「それはどうも、あれこれお気を遣わせて仕舞って申しわけなかったです」
 万太郎はデレデレとしたもの云いにならないように気をつけるのでありましたが、屹度デレデレとしたもの云いであったろうと、云った後に思うのでありました。
「本当に、本当に、心配だったんだからね」
 あゆみがもう一度念を押すように云うのでありました。「万ちゃんの事だから大丈夫だとは思っているんだけど、でも、若し何か変な風に事が動いて、万ちゃんの身に何か起こったらどうしようって、本当に、本当に、気が気でなかったんだから」
 万太郎はそう云うあゆみの間近にある顔を目を流して見るのでありました。見返すあゆみの目が潤んでいて、それは涙を溜めているように見えない事もないのでありました。
「なあに、あの連中が相手ですから、そう滅多な事は起こりませんよ」
「それはそうだろう判っているんだけど、それでも、・・・」
 あゆみは万太郎の肩に頭を寄せるのでありました。あゆみの髪の匂いが万太郎の鼻腔に纏わりついてきて、そのせいで歩調が余計ぎごちなくなって仕舞うのでありました。
「あゆみさんにこうもくっつかれると、照れ臭くて、何か、歩きにくいですね」
 万太郎があゆみに抱かれていない方の腕を上げて頭を掻くと、あゆみは頭を肩先から離して、興醒めたように万太郎を見るのでありました。しかしその後万太郎を余計たじろがせるように、前よりももっと万太郎に自分の身を密着させてくるのでありました。
(続)
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