お前の番だ! 530 [お前の番だ! 18 創作]
「折野、お前、俺達が会派を新しく立ち上げたのが気に入らないと云うので、総士先生に云われて態々からかいにでも来たのか?」
威治前宗家が目を怒らせて苛立たし気に吐き出すのでありました。
「いえ、そうではなく、会派の名前から常勝流の文字を外していただきたいとお願いに参りました。若先生や洞甲斐先生が新会派を創るのはご自由ですから、総士先生もそれをどうこうおっしゃっているわけではありません」
「だから、それは外す、と云っているんだから、それで良いのだろう?」
「はい、結構です」
「だったらもう用は済んだん筈だから、とっとと帰ったらどうだ?」
「ま、それはそうなんですが、未だ、心服、の件が残っていまして。・・・」
万太郎はそう云ってニイと笑うのでありました。
「シンプク?」
威治前宗家は万太郎が何を云っているのか判らないと云うように、怒らせた目の儘で小首を傾げるのでありましたが、それはまあ、そうでありましょう。
「何ですかそのシンプク、と云うのは?」
洞甲斐氏が威治延宗家とは反対の方向に首を傾げるのでありました。
「いやまあ、若先生と洞甲斐先生にここでこちらの元帳をあれこれ明らかにして仕舞うのも、何だか妙な話しになりますから、それはまあ追々、と云う事で」
万太郎は苦笑ってお辞儀しながら頭を掻くのでありました。
「お前、嘗めた真似をするのもいい加減にしろよ!」
威治前宗家が立ち上がって万太郎を一喝するのでありました。しかし怒りに任せて立ち上がったけれど、どこか怖じたような及び腰の儘万太郎を睨みつけているだけで、その後に万太郎に何やら狼藉を働くような気配は全く窺えないのでありました。
前方の威治前宗家よりも、万太郎は後ろの方で不穏な空気の揺らぎを感じ取るのでありました。その不穏な気圧は、万太郎の方に急速に近づいて来るのでありました。
万太郎はひょっとしてそんな事もあろうかと、洞甲斐氏が幹部と紹介した二人と、相撲とプロレスのしくじり甥っ子兄弟が後ろに控えた時点で、予め備えはしていたのでありました。いざとなったらそう云う魂胆であろう事は、この場にこの四人が現れたと云うだけで誰だって容易に想像がつくと云うものでありますし、またそう云う威嚇的意図も大いにあって、洞甲斐氏は四人をここにこうして立ちあわせているのでありましょうから。
力強い大きな掌が後ろから伸びてきて、万太郎の左肩をムンズと掴もうとするのでありました。近づく熱感から推測すれば、恐らくこの掌の持ち主は白Tシャツにバーミューダパンツの、しくじり兄弟のずんぐりむっくりの方でありましょう。
万太郎は完全に掴まれる一瞬前に、自ら肩をその掌の中に知れないように嵌めこんで、秘かに自分優位に密着を得るのでありました。これは受動的に掴まれる、と云うのではなく、こちらが主導して敢えて掴ませると云う、実は武道的な後の先の理であります。
(続)
威治前宗家が目を怒らせて苛立たし気に吐き出すのでありました。
「いえ、そうではなく、会派の名前から常勝流の文字を外していただきたいとお願いに参りました。若先生や洞甲斐先生が新会派を創るのはご自由ですから、総士先生もそれをどうこうおっしゃっているわけではありません」
「だから、それは外す、と云っているんだから、それで良いのだろう?」
「はい、結構です」
「だったらもう用は済んだん筈だから、とっとと帰ったらどうだ?」
「ま、それはそうなんですが、未だ、心服、の件が残っていまして。・・・」
万太郎はそう云ってニイと笑うのでありました。
「シンプク?」
威治前宗家は万太郎が何を云っているのか判らないと云うように、怒らせた目の儘で小首を傾げるのでありましたが、それはまあ、そうでありましょう。
「何ですかそのシンプク、と云うのは?」
洞甲斐氏が威治延宗家とは反対の方向に首を傾げるのでありました。
「いやまあ、若先生と洞甲斐先生にここでこちらの元帳をあれこれ明らかにして仕舞うのも、何だか妙な話しになりますから、それはまあ追々、と云う事で」
万太郎は苦笑ってお辞儀しながら頭を掻くのでありました。
「お前、嘗めた真似をするのもいい加減にしろよ!」
威治前宗家が立ち上がって万太郎を一喝するのでありました。しかし怒りに任せて立ち上がったけれど、どこか怖じたような及び腰の儘万太郎を睨みつけているだけで、その後に万太郎に何やら狼藉を働くような気配は全く窺えないのでありました。
前方の威治前宗家よりも、万太郎は後ろの方で不穏な空気の揺らぎを感じ取るのでありました。その不穏な気圧は、万太郎の方に急速に近づいて来るのでありました。
万太郎はひょっとしてそんな事もあろうかと、洞甲斐氏が幹部と紹介した二人と、相撲とプロレスのしくじり甥っ子兄弟が後ろに控えた時点で、予め備えはしていたのでありました。いざとなったらそう云う魂胆であろう事は、この場にこの四人が現れたと云うだけで誰だって容易に想像がつくと云うものでありますし、またそう云う威嚇的意図も大いにあって、洞甲斐氏は四人をここにこうして立ちあわせているのでありましょうから。
力強い大きな掌が後ろから伸びてきて、万太郎の左肩をムンズと掴もうとするのでありました。近づく熱感から推測すれば、恐らくこの掌の持ち主は白Tシャツにバーミューダパンツの、しくじり兄弟のずんぐりむっくりの方でありましょう。
万太郎は完全に掴まれる一瞬前に、自ら肩をその掌の中に知れないように嵌めこんで、秘かに自分優位に密着を得るのでありました。これは受動的に掴まれる、と云うのではなく、こちらが主導して敢えて掴ませると云う、実は武道的な後の先の理であります。
(続)
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