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お前の番だ! 528 [お前の番だ! 18 創作]

 万太郎は口調こそ大人しいのでありましたが、そのきっぱりとした云い草により強い眼光を乗せるのでありました。洞甲斐氏は怖じたように目を逸らすのでありました。
「どうしても、常勝流、の名前の使用を許さんと云うのか?」
 威治前宗家が声を荒げながら念を押すのでありました。
「許しません」
「ああそういか、判ったよ」
 威治前宗家は吐き捨てるのでありました。「実際俺は、常勝流、の名前なんかどうでも良いんだよ。単なる飾り以上とは思っていないからな」
 常勝流に対して、大いなる敬意と有難く思う心根、を持っているらしき片割れの言がこれであります。まあ、馬脚を現したと云ったところでありましょうが、しかしまあそれにしても、やけにあっさりあっけなく脚役の役者が姿を見せてくれたたものであります。
「では会派名から、常勝流、の文字を外していただけますね?」
「そんなものは是非とも必要と云う事ではないからな」
「それなら結構です。これで僕の用は済みました」
 万太郎はそう云って威治前宗家に格式張ったお辞儀をするのでありました。「では後日、確認のためにもう一度罷り越します」
「看板をちゃんと書き換えているか確認に来るのか?」
「そうです。今度は連絡なしで不意に看板を覗きに参ります。それからこれは云う迄もないですが、看板から常勝流の文字を外すだけではなくて常勝流の名を以って門下生を集めないでください。それに稽古に於いても常勝流の技法であると称して門人に教えないでください。と云う事はつまり、稽古で常勝流の技法名も当然使用をお断りします」
「随分とまたご念の入ったご指導だが、有難く頂戴しておくぜ」
 威治前宗家は口の端に精々の腹いせの皮肉な笑いらしきを浮かべて見せて、そう云い終るとすぐにソッポを向くのでありました。
「待ってください折野先生。しかし私共が道分先生にこれまで長くご指導いただいてきたのは、紛れもなく常勝流の技法なのですから、今の折野先生の云い方ではそれをも無視、或いは否定されているようで立つ瀬もないと云うか、慎に心外ですなあ」
 洞甲斐氏が横からやや憤慨した声でイチャモンをつけるのでありました。
「道分先生は、瞬間活殺法、等と云う怪しげな技法は指導されていない筈です」
 万太郎は冷たく云い放つのでありました。「それは常勝流の技法では全くなく、道分先生も絶対に指導される筈のない、洞甲斐先生のオリジナルな技法でしょう?」
「それはまあ、そうですが、・・・」
 洞甲斐氏は暫し口籠もるのでありました。「しかし、こちらにいらっしゃる若先生は余人には絶対ご教授されなかった道分先生のご指導を、一対一で授けられた方ですぞ。私は別にしても、折野先生の云い草は、若先生に対して如何にも失礼でしょう」
「そのような真偽不明で無責任な逸話が何処からか聞こえてきてはいますが、それは若先生が独立された折の、自分の売り出し文句でしかないと聞いております」
(続)
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