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お前の番だ! 517 [お前の番だ! 18 創作]

「問題って?」
 あゆみはもう少し身を乗り出すのでありました。
「会派の名前を、常勝流新興堂派、とつけられたらしいのです」
「ふうん。それは確かに問題あるわね」
 あゆみは眉間に皺を寄せてゆっくり身を引くのでありました。「お父さんの許可も取らずに、常勝流、を名乗るのは如何にも拙いでしょうね」
「そう云う事なのです」
「二人して、その辺の道理とかを知らないのかしらね」
「そうなりますね。威治先生は前に道分先生が亡くなって常勝流から独立される時に、当時の会長さんと総本部にお見えになって、その時の話しの中で、常勝流、の名称は総士先生のお許しがないと、法的にも勝手に使えない事を聞いておられる筈なんですがねえ」
「威治さんがそんな小難しい事をちゃんと聞いている筈ないじゃない、大体自分に不都合な事は、肝心のところだろうと何だろうと、頭になんか入らない人なんだから」
 あゆみはそう云って自分の前のコーヒーカップを取り上げるのでありました。
「で、まあ、困った事になったわけです」
 万太郎も釣られるようにコーヒーカップを手にするのでありました。
「お父さんは威治さんと洞甲斐先生を呼びつけて、その辺を叱るのかしら?」
「いいや、総士先生は事を大袈裟にせずに穏便に済ませたいと云うお考えです。だから鳥枝先生にも寄敷先生にも敢えてお知らせにならないお心算のようです」
「ふうん。・・・で?」
 あゆみは小首を傾げて見せるのでありました。何時も通りなかなか可憐な仕草でありましたが、万太郎は懸案があるために今一つうっとり出来ないのでありました。
「それで、総士先生は僕に八王子まで行って、事理を諭してこいとおっしゃるのです」
「万ちゃんが出向くの?」
 あゆみは今度は瞠目するのでありましたが、これも万太郎の好きなあゆみの表情の一つではあるけれど、見惚れてばかりもいられないのは件の如し、であります。
「そうです。お二人が恥じて自ら、常勝流、の名称を看板から外すように、お二人の心服を得られるような諭しをしてこいとのお達しです」
「あの二人に、恥じる、なんて心情があるのかしら?」
「僕もそう思います。況してや心服を得る等とは、富士山に兎跳びで登るより至難の事だと思います。で、今の僕の深刻そうな顔が出来上がったと云う次第です」
 万太郎は序でに消沈の溜息なんぞを上乗せして見せるのでありました。
「万ちゃんが一人で行くの?」
「そうでしょうね」
「花司馬先生か誰かと一緒に、とかじゃなくて?」
「総士先生は僕一人をお遣わしになるお心算のようです」
「それは上手くないんじゃない?」
(続)
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