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お前の番だ! 508 [お前の番だ! 17 創作]

 それから武道興起会と行動を共にする支部が七団体在るのでありました。その他の支部は独立の道を選んだり、ゴタゴタに倦んで解散するところも見られるのでありました。
「全く、威治のせいで常勝流が萎んだ事になったわい」
 鳥枝範士はそう云って憤慨して見せるのでありました。
「いやしかし、その後に新しく出来た総本部の支部も在りますから、どちらかと云うとあまり増減していない事になるのではないでしょうか」
 万太郎が遠慮がちに反駁すると鳥枝範士はムキになって再反駁するのでありました。
「旧興堂派も含めた常勝流を稽古していた支部は、現に減っているではないか」
「しかし減ったのは旧興堂派で、総本部としては俄然増えております」
「常勝流全体で見ると、稽古者の総人数は明らかに減っているだろう?」
 鳥枝範士はあくまでも自分の見解を押し通そうとするのでありました。
「いや、はっきりと数字を調べたわけではないですが、常勝流門下生の数は若干ながら、旧興堂派と総本部が二つ伴に存在していた頃より、増えていると思います」
「ほう。それは本当か?」
「興堂派も一応常勝流を名乗るために毎年門人の数を総本部に報告していましたから、調べれば門下生の総数はすぐに判ります。確か今は、その頃よりも増えている筈です」
「それは知らなんだな。感触として、減っているとばかり思っていた」
 鳥枝範士は一瞬全く意外だと云う面持ちをするのでありましたが、すぐに渋面を取り戻して続けるのでありました。「しかし増えているとしても、それは威治とは何の関係もない推移だ。威治が居なければ寧ろもっともっと増えていたかも知れんぞ」
「さあそれは、増えていたかも知れないし、そうでないかも知れないし。・・・」
 万太郎もあっさり引き下がらない辺りなかなかに頑固だと云えるでありましょうか。
「増えているのならそれは、ワシや寄敷さんのお蔭とは云えないから、お前とあゆみの功績だろうな。それと花司馬辺りの」
「いや僕は特段何もやった覚えはありません。あゆみさんに関しては、少年部の創設とか色々目に見えて門人獲得に貢献されましたが」
「ああそうか。少年部か。それもあったな。しかしところで、お前は何もしていないと云うが、この頃は門下生の間で、ワシや寄敷さんよりもお前の人気がなかなかのものだぞ。皆が挙って折野先生折野先生とお前の名前の連呼で、ワシなんか実に影が薄い」
「まさかそんな事はないでしょうが」
 万太郎は珍しく鳥枝範士に持ち上げられて、尻の辺りがモゾモゾとむず痒くなるのでありました。世間では、末期が近づくと気弱から人格が妙に丸くなる、と往々にして云われるのでありますが、ひょっとして鳥枝範士のこの珍しい持ち上げも、その類かと不謹慎な事をちらと考えるのでありましたが、勿論それは口に出さないのでありましたし、まあ、つまりそれくらい鳥枝範士から持ち上げられるのは珍事だと云うことであります。
 ところで威治前宗家の動静でありますが、八王子の門下生の一人から情報が齎されるのでありました。思わぬ辺りから聞かされたもので、万太郎は驚くのでありました。
(続)
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