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お前の番だ! 507 [お前の番だ! 17 創作]

「判りました。支部への配慮にも今の言葉にも大いに感心致しました。何時でも稽古にいらっしゃい。我が常勝流総本部道場は屹度歓迎致しましょう」
 是路総士が田依里師範にニッコリと笑いかけるのでありました。
「有難うございます」
 田依里師範は深々とお辞儀するのでありました。
「ところでその後、威治君はどうしているのか、田依里さんはご存知ですかな?」
「いや、はっきりとは私も知りません」
 田依里師範はそう云って横に座っている佐栗理事の方に顔を向けるのでありました。
「私の方にも特に動静は伝わって来ませんね。必要なかったかも知れませんが、一応礼儀から、こちらからその後の組織の変更に関しては電話を入れた事がありましたが、もう自分には全く無関係な事だと云った風の、実に突慳貪と云うのか、無愛想と云うのか、そんな応対でした。ですから、その後どうしているかとか、そんな話しもしませんでした」
 佐栗理事はゆっくりと首を横にふりながら云うのでありました。
「ああそうですか」
 是路総士は目線を自分の正坐した膝の上に落として、憂いを表するのでありました。「それでは一度私の方から、家の方にでも電話でもしてみますかな」
「威治に対して、もう総士先生にはそのような配慮をなさる必要はないかと存じます」
 鳥枝範士が口を挟むのでありました。「云ってみれば自業自得で、彼奴が勝手に仕出かした不始末と帰結ですし、彼奴に関ずらわっていると碌な事がないですからな」
「そうは云いますがねえ、・・・」
 是路総士は陰鬱な表情を解かないのでありました。
「彼奴の方から連絡でもしてくれば、それから少しの憐情でも表せば良いのではないですかな。こうなった以上、後はどうなと勝手に生きて行けと、その程度に助言を与えて。ま、彼奴の事ですから総士先生に自分から連絡を取ってくる殊勝さもないでしょうがね」
 鳥枝範士は慎につれないのでありました。しかしその見こみ通り、自ら連絡をしてくる事はないのでありましたが、思わぬ辺りから威治前宗家の動静が知れるのでありました。

 さて、嘗ての興堂流は、武道興起会、と名前を改めて、任意の武道道場として再出発するのでありました。田依里師範に依れば流派ではなく、稽古の研究会と云った趣で、現状の姿や特定の技法を守ると云うよりは、新しい武道の在り方を模索し試行錯誤を繰り返しながら、将来に亘って自律的に変化していく団体だと云う事でありました。
 これは意識的に変化を許容すると云う姿勢でありますから、武道界に在っては異色と云えるでありましょうか。特に常勝流の様な古武道は守旧を宗とし、出来るだけ変化を嫌うと云う態度でありますから、それは大いに可能性を秘めた試みと映るのであります。
 さて、結局興堂流から常勝流総本部の傘下に移ってきたのは五団体でありました。それも興堂流になって新しく出来た支部ではなく、常勝流興堂派時代から既に在った支部で、常勝流の技法に既に馴染みのあったところと云う事になりましょうか。
(続)
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