SSブログ

お前の番だ! 505 [お前の番だ! 17 創作]

「興堂流が今般解散となるのならば、当然威治君の後の宗家の跡目の問題も、つまり霧消する事になるのでしょうかな?」
 是路総士が茶を一口啜ってから佐栗理事に訊くのでありました。
「そうなります。当初は興堂流を存続させるには、道分先生のご長男である道分辞大さんに跡を継いでいただこうかと云う話しもあったのですが、自分は偶々興堂流の理事の一人ではあるが、武道とはまるで縁のないところを歩んできたからと固辞されました」
 佐栗理事が序ながらと云う風に、その間の経緯を披露するのでありました。「それに宗家と云っても道分先生が望んでそう云う制度を導入したのではなく、道分先生ご逝去後の威治氏の都合で偶々そう名乗っただけで、宗家の存続は道分家としても特段望まないと云うご意見でして、まあ、そんな事情もありましたものですから、それならばいっそ、興堂流を解散しようと云う意見で理事会が一決したと云うところもありましょうか」
「ああそうですか」
 是路総士は頷いてまた茶を啜るのでありました。
「ところで、今日こうしてお伺いしたのは、興堂流を始末する決定のご報告と同時に、総士先生にお願いの儀もありましたももですから、・・・」
 佐栗理事が物腰を改めるのでありました。
「ほう、それは何でしょうかな?」
「興堂流を畳むに当たって、私共の支部の幾つかが、先の時と同じように、こちら様へ移籍したいと願い出てくるかも知れませんので、その時にはどうぞご寛容に受け入れてやっていただけないかと、そんな手前勝手なお願いもありまして。・・・」
 佐栗理事の云う、先の時、とは、威治前宗家が独立して興堂流を立ち上げた時でありましょう。その折のゴタゴタ時には敢えて移籍を希望しなかった支部が、今更節を曲げる不謹慎に目を瞑って、寛容に、受け入れて貰いたいと云う願いのようであります。
「ああ、そう云う事ですか」
 是路総士は無表情に頷くのでありました。
「しかし今となっては、興堂流と常勝流とでは技法がかなり違ってきているでしょう。こちらに移りたいと云うのなら、それを改められますかな?」
 寄敷範士が口を出すのでありました。
「そのご懸念は当然の事だと思います」
 これには田依里師範が受け応えるのでありました。「当身中心の技の体系に変えたのはこの私が張本人ですが、それは採用した試合形式に馴染むようにとの思いからでした。その時にはそうすべきとの信念があったのですが、まさかこんな仕儀になるとは、・・・」
「他流となった興堂流の技の変化をとやこう云うのではありませんが、今の興堂流の稽古に慣れた人達が、再び常勝流本来の稽古を受け入れられますかな?」
「それは移籍を希望する以上、受け入れると覚悟しての事とお考えいただいて結構だと思います。恐らく移籍を望むのは興堂流になる前の、道分先生時代からの支部が殆どでしょうし、常勝流の稽古に復帰するのに然程の難はないと私としては考えております」
(続)
nice!(9)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 9

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

お前の番だ! 504お前の番だ! 506 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。