お前の番だ! 504 [お前の番だ! 17 創作]
田依里師範は真面目な口調で受け応えるのでありました。
「まあ、田依里君の主催する道場と云う事にはなりますが、・・・」
佐栗理事が後を引き継ぐのでありました。「敷居も低くして世間への体裁も考えずに、出来るなら会費も下げて、稽古好きな者が気安く集える一介の武道同好会、と云った色調で運営していく心算でおります。一応私も世話役、と云う形で参画する気でおります」
「月謝を下げたりして、先々回していけるのかね?」
鳥枝範士が腕組みしながら訊くのでありました。
「営利は当面考えない事にします。若し運営の面で苦しいようなら、私は別途生計の道を探しますし、これまでも私はそのようにして武道を続けて参りましたから」
田依里師範が特段気負った顔もせずに、到ってあっさりと云うのでありました。
「田依里さんは、ご家族はお在りにならないのですか?」
花司馬教士が訊くのでありました。
「ええ、ずっと独り身で、養うべき家族は持った事がありません。ですからこの身一つが何とか食えれば、それで構わないのです」
これは家庭持ちの花司馬教士ならではの質問と云ったところでありましょうか。
「まあ、田依里君に関しては他に仕事をしなくとも、道場だけで食えるように私の方で計らう心算です。田依里君が若し別に何処かに就職したりするならば、稽古時間にも制限が出来ますし、それでは門下生もそうそう集まらないでしょうから」
佐栗理事が所存を述べるのでありました。
「まあ、佐栗さんが後援してくれるなら、大船に乗った気でいて大丈夫だ。これでなかなか、佐栗さんはやり手の経営者だからなあ」
鳥枝範士がそう云ってニンマリと笑うのでありました。この佐栗理事は、娑婆では建築設計事務所を経営しているのでありました。
「いやいや、私なんぞは鳥枝さんの足元にも及びません」
佐栗理事は苦笑しながら掌を横に数度ふって見せるのでありました。
「堂下の扱いはどうなるのでしょうか?」
万太郎が質問するのでありました。
「堂下君は新しい道場に助力すると云ってくれております」
田依里師範は万太郎の方に視線を向けるのでありました。
「佐栗さんの方で、堂下君も面倒を見ていただけるのでしょうかな?」
これは寄敷範士が訊くのでありました。
「まあ、田依里君と堂下君と二人丸抱えですっかり面倒を見るとなると些か腰が引けますが、今の道場の経営状態からすれば、堂下君も、充分とは云えないまでも道場の方に専心して貰えるだろうと考えております。堂下君も自分は他でアルバイトをしながらでも協力する、と云ってくれていますので、その意気には充分報いたいと思っております」
こう云う佐栗理事は到って篤実な人と、万太郎には見えるのでありました。こういう人が後ろに居れば、田依里師範も堂下も一先ずは安心と云うものでありましょう。
(続)
「まあ、田依里君の主催する道場と云う事にはなりますが、・・・」
佐栗理事が後を引き継ぐのでありました。「敷居も低くして世間への体裁も考えずに、出来るなら会費も下げて、稽古好きな者が気安く集える一介の武道同好会、と云った色調で運営していく心算でおります。一応私も世話役、と云う形で参画する気でおります」
「月謝を下げたりして、先々回していけるのかね?」
鳥枝範士が腕組みしながら訊くのでありました。
「営利は当面考えない事にします。若し運営の面で苦しいようなら、私は別途生計の道を探しますし、これまでも私はそのようにして武道を続けて参りましたから」
田依里師範が特段気負った顔もせずに、到ってあっさりと云うのでありました。
「田依里さんは、ご家族はお在りにならないのですか?」
花司馬教士が訊くのでありました。
「ええ、ずっと独り身で、養うべき家族は持った事がありません。ですからこの身一つが何とか食えれば、それで構わないのです」
これは家庭持ちの花司馬教士ならではの質問と云ったところでありましょうか。
「まあ、田依里君に関しては他に仕事をしなくとも、道場だけで食えるように私の方で計らう心算です。田依里君が若し別に何処かに就職したりするならば、稽古時間にも制限が出来ますし、それでは門下生もそうそう集まらないでしょうから」
佐栗理事が所存を述べるのでありました。
「まあ、佐栗さんが後援してくれるなら、大船に乗った気でいて大丈夫だ。これでなかなか、佐栗さんはやり手の経営者だからなあ」
鳥枝範士がそう云ってニンマリと笑うのでありました。この佐栗理事は、娑婆では建築設計事務所を経営しているのでありました。
「いやいや、私なんぞは鳥枝さんの足元にも及びません」
佐栗理事は苦笑しながら掌を横に数度ふって見せるのでありました。
「堂下の扱いはどうなるのでしょうか?」
万太郎が質問するのでありました。
「堂下君は新しい道場に助力すると云ってくれております」
田依里師範は万太郎の方に視線を向けるのでありました。
「佐栗さんの方で、堂下君も面倒を見ていただけるのでしょうかな?」
これは寄敷範士が訊くのでありました。
「まあ、田依里君と堂下君と二人丸抱えですっかり面倒を見るとなると些か腰が引けますが、今の道場の経営状態からすれば、堂下君も、充分とは云えないまでも道場の方に専心して貰えるだろうと考えております。堂下君も自分は他でアルバイトをしながらでも協力する、と云ってくれていますので、その意気には充分報いたいと思っております」
こう云う佐栗理事は到って篤実な人と、万太郎には見えるのでありました。こういう人が後ろに居れば、田依里師範も堂下も一先ずは安心と云うものでありましょう。
(続)
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