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お前の番だ! 502 [お前の番だ! 17 創作]

 是路総士はと云えば、ああそうか、と特段声の抑揚もつけずに無表情に頷いて見せるだけでありました。しかしそれは興堂流会長の辞職と云う事態に全く無関心と云う事ではなくて、揉め事を抱えた他派の動向に逐一好奇の目を向けると云う行為が、甚だ以って卑しい心情からのものだとして、慎む方が良かろうとする節度からでありましょうか。
 出来不出来は別として興堂範士の直系である威治前宗家も、功罪は別として長年組織を取り纏めていた財団会長も去った興堂流は、これから一体どのような道を進むのでありましょう。残った理事連中と田依里師範が向後どんな方向を打ち出して運営に当たるかは、間接ながらも源流たる常勝流に関係がある事と云えなくもないでありましょうから、ここは是路総士も他人事として無関心の儘を決めこんでいる事は出来ないでありましょう。
 以前興堂流が常勝流から独立した時のように、常勝流総本部の傘下に入りたいと願ってくる興堂流支部等がまたも出るやも知れません。しかし今では技術の様相も全く違ってきているのでありますから、それをおいそれと認めるわけにはいかないでありましょう。
 それに威治前宗家と違って、総本部とは友好的なつきあいを望んでいる筈の田依里師範との関係もありますから、その許諾なしに来たい者を無条件に拒まないと云うのも、田依里師範に対する友好的な常勝流総本部の姿勢とは云えないと云うものであります。しかしまあ、事が起こる前にあれこれ取り越し苦労しても詮ない事でもありますし、ここは一つデンと構えて、クールにこれからの推移を見守っていくしかないでありましょうか。
 万太郎がこんな事を考えながら日を送っていると、ある日突然田依里師範から是路総士へ面会を申しこむ電話が入るのでありました。この電話は偶然万太郎が取ったのでありましたが、電話の向こうの声が田依里と名乗るのを聞いて、万太郎はほんの少し緊張を覚えて、思わず右手で持って右耳に当てていた受話器を左手に持ち替えるのでありました。
 しかし全くの不意から思わず緊張を覚えたと云う事ではなくて、万太郎は田依里師範が遠からぬ何時かこちらに接触を求めてくるかも知れないと、特に根拠があるわけではないながら予知はしていたのでありました。でありますから万太郎のこの緊張は、いよいよその予知が当たった事への少しの感奮からであったと云うべきものでありましょうか。
 その時これも偶々是路総士が留守であったものだから、万太郎は後程是路総士に伺いを立ててこちらから連絡すると、それだけ丁重な物腰で云い置いて受話器を置くのでありました。万太郎としてはその後の動向を田依里師範に聞いてみたくもあったのでありましたが、それは自分如きが僭越の誹りを免れ得ないと思い止まったのでありました。
 この電話から遠からぬ或る日、田依里師範は興堂流財団理事を一人伴って、調布の総本部道場にやって来るのでありました、伴った理事とは佐栗真寿史理事で、件の鳥枝範士と繋がりのある、広島の須地賀氏と伴に前に総本部に来た事がるのでありました。
 万太郎の出迎えで玄関を上がった二人は、早速師範控えの間に招じ入れられるのでありました。控えの間には是路総士を筆頭に鳥枝範士と寄敷範士それに花司馬教士もあゆみも揃っているのでありました。勿論万太郎も案内後その儘その場に座るのでありました。
 総本郡道場の主立つ者勢揃いと云う按配でありました。しかしこれは総本部の威を見せつけるためではなく、興堂流のその後に皆が関心を抱いているが故でありました。
(続)
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