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お前の番だ! 499 [お前の番だ! 17 創作]

 鳥枝範士はそう云って花司馬教士に含み笑って見せるのでありました。「しかし威治にはもう貢ぐ金の出処がないだろう。そんな威治には女としても興味もなかろうし」
「成程。まあ確かに、素の儘でもモテる、なんと云うような男ではありませんからね」
 花司馬教士は特に憫笑を浮かべて見せるわけでもなく、全くの無感情の顔で、納得したように数度頷いて見せるのでありました。
「興堂流は、その後はどのような形で運営されているのだろう?」
 是路総士が別の面に話しを移すのでありました。
「威治は殆ど顔も見せなくなっていたから、稽古の上では別に問題は生じていないと云う事ですな。今まで通りの、田依里を主とする指導体制に変化はないそうです」
 鳥枝範士がそう応えて、来間の注いだ猪口の酒を口に運ぶのでありました。「前から実質的に田依里が今現在の興堂流の技術を総覧していましたし、元々威治なんぞは居ても居なくてもどうでも良い存在になっていましたからねえ」
「組織の運営面ではどうですかな?」
「会長の息のかかった公認会計士が入っているそうです。すっかり専属に会計等を見ると云うのではないようですが、適宜目を光らせているようです」
「日常的な事務はどうなっているのでしょうかな?」
「堂下が事務も兼任しているようです。所帯も昔に比べれば随分縮んで仕舞っていますから、そう云う形でも充分熟せるのでしょう。これは余談になりますが、田依里にも堂下にも、威治が宗家だった頃に比べればそれなりの待遇改善がなされたようです。堂下なんかは威治の頃よりは現在の方が、余程有難い扱いになったと云うところでしょうな」
「組織的には寧ろ、色んなところが明朗になったと云うわけかな?」
 寄敷範士が花司馬教士の傾ける徳利を猪口に受けながら質すのでありました。
「まあ、そうなるな。未だこれから先、あれこれ体制上の細かい変遷はあるとは思うが、しかし何につけても疎漏のない田依里が、名目も実質も興堂流を主導する事になるのだから、威治の頃の様な万事に有耶無耶だった辺りはなくなるだろうよ」
「結構な事だ」
 寄敷範士はそう云ってグイと日本酒を喉に送りこむのでありました。
「まあ、興堂流は心配ないようですが、今後の威治君個人に関しては心配ですなあ」
 是路総士がそんな事を漏らすのでありました。
「身から出た錆、と云うものです」
「それはそうだが、私は威治君を後見すると道分さんに約束していたからなあ」
「総士先生の後見役は、筋としては威治が常勝流から独立した時点で解消されております。総士先生が気に病まれる必要は、もうないと思われますが」
 鳥枝範士が来間から徳利を取って是路総士に差しかけるのでありました。
「しかし亡くなった道分さんと私の仲を考えれば、遺児の威治君の身に対して全く無関係と云う態度を決めこむのも、私としては何とも心苦しい」
 是路総士は少し苦った表情で鳥枝範士の酌を受けるのでありました。
(続)
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