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お前の番だ! 494 [お前の番だ! 17 創作]

「宗家の金銭上の不始末が発覚したのが、辞した理由のようです」
 師範控えの間で万太郎と二人だけになったにも関わらず、来間は未だ声を潜めるような喋り方をしているのでありました。
「ああそうだ」
 万太郎はふと気づいたように来間の顔の前に掌を差し出して、話しを一旦遮るのでありました。「あゆみさんを呼んできてくれ。その話しはあゆみさんと二人で聞こう」
 来間は頷いて、すぐに食堂にあゆみを呼びに行くのでありました。
「何、何の話し?」
 師範控えの間に入ってきたあゆみが万太郎に話しかけながら、卓の左側に座るのでありました。上座を遠慮して右側に座っている万太郎と対座する容であります。
「何でも来間の情報に依ると、威治宗家が興堂流の総帥の地位を辞したらしいのです」
 万太郎はあゆみにそう云ってから下座に座る来間の方に顔を向けるのでありました。それに釣られるように、あゆみも来間の方に視線を移すのでありました。
「金銭上の不始末が発覚したらしいのですね」
 来間が小声の儘で前言をあゆみに向かって繰り返すのでありました。
「具体的にはどういう事だ?」
 万太郎が先を促すのでありました。
「興堂流の金を宗家が私的に流用した、と云う事のようです。まあ、要するに横領ですから、自ら退いたという体裁になっていますが、事実上の懲戒免職、と云う話しです」
「それは間違いのない情報なのか?」
「自分が仕入れたところでは」
 来間はしかつめ顔をして重々しく頷くのでありました。
「事実上の免職を決めたのは興堂派の理事会か?」
「いや、興堂派会長の一存で自発的な辞職と云う容にしたと云う事です。理事会の総意で免職、と云う事になると話しが大袈裟になって様々な方面に対してあれこれ面倒だし、世間体も悪いと云うので、会長が差しで宗家に話しをつけて、なるべく素早くスムーズに事を収めるために、個人都合に依る辞職と云う格好を取ったのだと云う話しですね」
「まあ、そう云う事にした方が、威治宗家にとっても好都合ではあろうしなあ」
 万太郎は差し当たり、納得気に頷くのでありました。
「でも、興堂流は一応、財団法人なんだから、そんな処理で大丈夫なのかしら?」
 あゆみが疑問を呈するのでありました。
「そう云えばそうですよね。外部の監査とかも入るだろうし、空いた穴を塞げないとなると、色々な方面に対してあっさりとはなかなかいかないでしょうしね」
 万太郎はこちらにも頷いて見せるのでありました。
「事が発覚した以上、横領した金は威治宗家が弁済すると云う事のようですし、会長の政治力と、会計処理に些かの策を弄すれば、監査とかの外面は何とか繕えるのではないでしょうかね。そう云手練手管はあの会長のお家芸だと云う話しもありますし」
(続)
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