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お前の番だ! 482 [お前の番だ! 17 創作]

 まあ考えてみれば実技指導の方は田依里筆頭師範が居るので、威治宗家なんぞの出る幕はないであろうし、元々が武道に対してそんなに気高い志操を有していた人でもなかろうから、つまりは成るべくして成った姿とも云えるのでありましょう。田依里筆頭師範にしても、それに門下生にしても、気紛れに稽古に出て来て大威張りで頓珍漢な指導をされるよりは、大人しく奥に引こんでいて貰った方が余程有難いと云うものでありますか。
 それに高額のパソコンを大した使い道も考慮せずに衝動的に購入する割には、この頃の威治宗家は万事に甚だ吝くもなったと云う堂下の話しでありました。道場の補修とか切れかかった電灯の買い替えなんかにも、一々渋い顔を見せると云うのであります。
 田依里筆頭師範の指導がそこまで行き届かないのか、堂下は威治宗家への愚痴やら悪感情をあっけらかんと万太郎に話したりするのでありました。今では堂下は他流派の指導員でもありますから、万太郎としてはそれを窘める事もしないのでありましたし、寧ろ堂下の話しから威治宗家の最近の様子などが窺い知れるので好都合とも云えましたか。
 出納に関しては、宗家が何処からか拾って来た四十代半ばのイカさない風貌の男が見ていると云う事でありました。この男の肩書は事務局長と云うものだそうであります。
 威治宗家は金銭の出入りを厳密に管理したり、出納帳や経費帳とか元帳をつけるなんという仕事は端からする気もないようで、金銭の出入りに敏感になった割にはそう云う仕事はこの男にすっかり任せているようでありました。威治宗家としては大凡の入った金出た金の様子がざっくりと判れば、それで事足りると云う了見なのでありましょう。
 欠かせない道場の畳の補修とかには金を出し惜しみするくせに、パソコンもそうでありますが、道場での自分の飲食費とか遊興費、或いは余所に対しての自分の見栄や体裁とかに使う金には、到って寛容なようでもありました。件の事務局長とやらもその宗家の魂胆に便乗させて貰って、少しのお零れに喜色を浮かべているようであります。
 それは当然、田依里筆頭師範や堂下、それに他の二三の指導員への給金もしみったれると云う事でありますし、そのくせに自分の懐に入れる金はしっかりと確保していると云う事でもありました。堂下としてはそ辺にも大いに憤っているようでありました。
 田依里筆頭師範以下の指導員連中の月々の給金は、時給計算なのだそうであります。しかも実働時間のみで算定されるので、例えば遠近の支部道場等に出張指導に赴く場合の、移動の時間等は全く考慮されはしないと云うのでありました。
 おまけに、各個に自立した傘下団体への出張指導はその団体から交通費が出るのでありましたが、本部直属団体への交通費はずうっと自腹だったのだそうであります。しかしまあ、最近は田依里筆頭師範の進言に依り実費は出るようになったようでありますが。
 元々他人には恥ずかしくて云えない程、まるっきり少額なところに加えての時給計算でありますから、風邪を引いたり忌引き等で休んだりすれば、その分の給金は一円も貰えないのであります。威治宗家としては若しもっと稼ぎたいのであれば、自分で支部でも創って門下生を一杯集めて自力で勝手に稼げ、と云う腹でいるようであります。
 要は、修行をさせて貰っている身で金の事をあれこれ云うな、と云うのが威治宗家の考えでもありますか。云う人が云うなら、それも一理かと万太郎は思うのでありました。
(続)
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