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お前の番だ! 481 [お前の番だ! 17 創作]

「若しも将来事情が許すようになったら、総本部道場にも稽古に伺いたいとも云っていたぞ。大きく変貌したとは云え、興堂流は常勝流から発したのは間違いのない事で、そこで指導をする者として、遅ればせながらも常勝流の理を学んでみたいのだそうだ」
「何でも宗家から常勝流の一端は習っていると、花司馬先生におっしゃったようです」
「威治からか?」
 寄敷範士は頓狂な声を発するのでありました。「そりゃ駄目だ。威治では話しにならん。彼奴のは常勝流本流ではないし、道分先生の技にしても全然受け継いではいない」
 寄敷範士は花司馬教士同様、全く以って鮸膠もないのでありました。
「さてしかし、将来事情が許せば、と云う事ですが、田依里さんがウチの道場に稽古にお見えになる日が、何時か来るのでしょうか?」
「威治が興堂流のトップにふんぞり返っている限り、当分は無理だろうな」
 寄敷範士は顰め面で首を横に何度かふるのでありました。「しかしまあ、あの田依里と云う男が筆頭師範を務めているのなら興堂流も、安泰とはいかんかも知れんが、一先ず落ち着くだろう。あの男なら門下生にも、支部長クラスにも評判は良かろうからなあ」
 寄敷範士は、今度は無表情をして首を縦に数度ふるのでありました。
 こう云った寄敷範士や花司馬教士の評言、それに来間の意見を踏まえた万太郎の田依里筆頭師範に対する感触等は、当然是路総士にも鳥枝範士にも、それにあゆみにも伝わるのでありました。是路総士は田依里筆頭師範に直接逢ってはいないから、特段の興味をそそられると云う程ではないようでありましたし、あゆみも同様にクールでありましたか。
 その点鳥枝範士は田依里筆頭師範のような人物が興堂流に現れたと云う事を、余り歓迎してはいない口ぶりでありました。と云うのも、鳥枝範士は興堂流がこの儘次第に衰弱していって、結局消滅して仕舞う事を期待しているようでありましたから。
「そんな人物が居るのなら、興堂流の命脈も少し延びるか」
 鳥枝範士は渋い顔をするのでありました。「威治やあの会長が結局二進も三進もいかなくなって、みすぼらしく武道界から遁ズラする時の吠え面が見てみたいと思っていたのだが、そうなるとワシのこの楽しみは少し先延ばしになるか」
 鳥枝範士はそんな憎まれ口を利いて、口の端に人の悪い笑みを湛えるのでありました。勿論万太郎は同じような渋面を作ってその意に同調するような事は控えるのでありましたが、これは調子に乗って若しそんな事をしたとすれば、逆に鳥枝範士の怒叱を誘発して、返って万太郎が吠え面をかく事になるのを知っているためでありました。

 万太郎が聞くところに依ると、威治宗家は稽古にも殆ど顔を出さないようになっているようでありました。この、聞くところ、の出処は、来間の情報や最近昔の誼が戻った堂下と、八王子の体育館で時折短く交わす近況話しの交換から得たものでありました。
 威治宗家は葛西の道場の師範室を一人で専有して、そこに最近普及し始めた高額のパソコンなんぞを持ちこんで、指導そっち退けでゲームに夢中になっていると云う事でありました。これは何とも実に、無責任且つお気楽な宗家であります。
(続)
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