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お前の番だ! 471 [お前の番だ! 16 創作]

「先ずはお前の若さを見縊って良いようにあしらえると踏んでいたのだろうが、話してみるとお前が思いの外冷厳で強面だったものだから、すっかり上擦って仕舞ったのだろうよ。まあ、時に横柄になったり、かと思うとすぐに諂ったり及び腰になったり、際物が正統に対して往々にして見せる、典型的な卑屈が出たと云うところだな」
 鳥枝範士は鼻を鳴らすのでありました。
「まあ、それでは順を追って、今日の経緯の詳細を聞くとしようか」
 是路総士が仕切り直すようにそう云うので、万太郎はなるべく細かく、洞甲斐先生の言葉をその儘再現しつつ、八王子の居酒屋での経緯を満座に披露するのでありました。
「興堂流に居づらくなったからこちらに移ろうとされたのでしょうけど、こちらからも断られたとなると、洞甲斐先生はこれからどうなさる心算なのでしょうね?」
 一通りの万太郎からの説明を聞いた後で、あゆみがそんな事を呟くのでありました。
「独立しかなかろうよ」
 鳥枝範士が応えるのでありました。
「しかしあの人は、何かしらの権威の尻尾にしがみついていないと安心出来ない人でしょうし、自信たっぷりに見えて、その実は尻の穴の慎に小さな人ですからねえ」
 花司馬教士がそんな下品な表現をして申しわけなかったかなと、あゆみの方にちらと視線を投げるのでありました。あゆみの方は無表情にそれを聞き流すのでありましたが。
「まあ、だからすんなり独立を選ばないで、こちらに色目を遣ってきたのだろうが」
 鳥枝範士は一応花司馬教士の言に頷くのでありました。「しかし、あちらもこちらもダメだとなると、残された道は独立しかないのは確かだ。まあ、ワシとしては彼奴が独立しようが消えてなくなろうが知ったこっちゃないがなあ」
「洞甲斐先生は、色々な事を根に持つタイプでしょうかね?」
 万太郎が花司馬教士に訊くのでありました。
「いや、どうでしょう。本心は判りませんが、今までを顧みると、あれで意外にあっさりしたところもあるように見受けられます。ま、忘れっぽいのか、根が図々しくて鈍感なためか、一晩寝ると次の日にはケロッとして、あんまり拘らない風と云うのか、すぐに次の展開を考えるタイプと云うのか、私の印象としてはそんな感じでしたかねえ」
「へえ。意外にポジティブな人なのですねえ」
「いや、厚かましい人、と云うべきでしょう」
「厚かましくなければ、道分先生の生前から、瞬間活殺法なんぞと云う怪し気な事は云い出さないだろうよ。ま、ワシに云わせれば単なる馬鹿だが」
 鳥枝範士がまた鼻を鳴らすのでありました。
「そう云えば僕も話していて、鈍いなと思うところも時々ありましたか。しかし今考えると、憎めないタイプではあるかなとも、思うような、思わないような。・・・」
「憎むだけの価値もないヤツだと直感したから、今になってそう思うだけだろうよ」
 鳥枝範士は到って鮸膠もないのでありました。
「まあ確かに、敢えて一緒に武道を研鑽しようと云う気は一切起きませんでしたが」
(続)
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